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TOPTALK&INTERVIEW県外出身だからこそ伝えられる、このまちの魅力

2023.11.28

県外出身だからこそ伝えられる、このまちの魅力

商品を通して、地域背景や作り手の思いを発信する
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ひとつ前の記事で紹介したNPO法人ORGANの蒲さん(記事はこちら)がプロデュースする「長良川デパート」、「長良川てしごと町家CASA」。今回お話を伺った河口さんは、長良川デパートと、和傘CASA(※長良川てしごと町家CASA内の和傘専門店)の店長を務めている。河口さんのお話で印象的だったのは、「県外出身の立場だからこそ、地元の人も気づいていないまちの魅力を発見できる」という言葉。ORGANの活動を通して出会った特産物、環境、人を常に頭に思い浮かべ、地元の人にエネルギッシュに発信し続ける河口さんのお話を聴くと、さまざまな方向から見た、まちの魅力が見えてきた。

※文中敬称略

    • 河口郁美(かわぐち いくみ)さん 
      NPO法人ORGANメンバー/長良川デパート、和傘CASA店長/ORGANキモノ事業部
      名古屋市出身。大学で染織を学び、着物を制作。卒業後、他装着付けを学び、ブライダル、成人式、七五三、卒業式などの着付けに携わる。2012年、ORGANの事務所と同じ町内に引っ越してきたご縁で、ORGANの事業に携わるようになり、『ORGANキモノ』の着付け、岐阜市の芸舞妓の着付けも行う。また、長良川流域の商品を扱うセレクトショップ長良川デパート・和傘CASAの店長を務める。

きっかけは町家の暮らし。好奇心で飛び込んだ。

河口さんは、蒲さんが理事長を務めるNPO法人ORGANメンバーであり、蒲さんがプロデュースするセレクトショップの長良川デパート、和傘CASAの店長を務めている。岐阜県ではなく愛知県名古屋市出身の河口さん、どのようにORGANと出会ったのだろうか。

河口:私はもともと名古屋出身で結婚後も名古屋に住んでいましたが、主人の地元が岐阜だったので、いつかは岐阜に住みたいという話をしていて、移住しました。岐阜ではあこがれていた町家に引っ越し、その場所がORGANの事務所と同じ町内だったことが出会いのきっかけでした。

河口:ORGANメンバーが、たまたま街歩きイベントをしていた時、家の玄関をパーパー(開けっ放し)にしていたところ、「すみません。町家の暮らしってどうですか?」といきなりインタビューされたんです。このインタビューを受けたことでORGANの打ち上げに呼んでもらい、そこで蒲に「今、仕事で人を探しているんだけど暇?」と声をかけられました。何の仕事をするのかも分からずでしたが、引っ越した時から蒲の存在と活動は知っていたので、なんだか楽しそうと思い、二つ返事でORGANメンバーになりました。

分からない世界を知りたい!という好奇心と、ORGANという同世代の活動に背中を押された河口さん。ORGANメンバーとなって初めて携わった仕事は、岐阜の食をテーマにした冊子作りやイベント運営だったと言う。

河口:岐阜のB級グルメなど、地域に直接取材に行き、最終的に岐阜の食をテーマにイベントをするのが、その当時の仕事でした。地域イベントというと、普通は地元の人が県外の方に地域の魅力を伝えると思うのですが、引っ越してきたばかりの私が、地元の人に地域の食の魅力を伝えるという、すごくコアな世界に足を踏み入れた気分で。でもこの活動をきっかけに、地域の人と話す機会が増え、地理を覚えたり、マニアックな職を知ったり、岐阜についてすごく詳しくなりました。それが今の仕事にもつながるスタートだったと思います。

新鮮な目でまちを見ることができる “移住者ならではの特権”

「岐阜の素敵な部分をたくさんの人に知ってほしい!」と岐阜について学び、熱意をもって発信する河口さんと話していると忘れてしまいそうだが、もともとは県外の出身。現在は岐阜出身のご主人より、岐阜について詳しいという河口さんだが、自分の地元ではない岐阜について、なぜここまで思いをもって活動できるのだろうか。

河口:名古屋から電車で20分という近い距離に位置するのに、こんなに文化が違うんだ!とすべてが新鮮で、これだけ魅力的なものや美味しいものがあるなんて、岐阜はすごい豊かな場所だと思いました。でも地元の方と接する中で、地元の方だから気づいていない魅力も多いと感じています。

長良川デパートの壁には、長良川流域の文化と名物を表すイラストが描かれている

河口:例えば、和傘や私の仕事をテーマに、地元の学校で講演する機会があるのですが、“岐阜には何もない”と思っている子どももいて、私は常に「岐阜には何もなくない」と話しています。みんなは長良川のことを「ただの川」と思うかもしれませんが、川があることによって、特産物や環境や食べ物が密接に関わっている。当たり前に目の前にある環境だからこそ魅力に気づかない、地元ってそういうものなのかなと思いますが、私は県外出身だからこそ、すごく新鮮な目で先入観もなく触れることができる。だから“移住者ならではの特権”として、岐阜に魅力を発信していきたいと思っています。

“移住者だから岐阜のことをあまり知らない“ではなく、”移住者だからこそ新鮮な目で岐阜を見ることができる“。出身地に関係なく、魅力的に思ったものをみんなに知ってほしい、伝えたい、その強い思いが河口さんを動かしているのだ。

地域を知り、人を知り、商品の向こうにいる人のために

長良川デパート、長良川てしごと町家CASAでは、和傘や提灯といった長良川流域で生まれた商品を扱っている。扱う商品の多くは職人さんが手仕事で作り上げたもので、地域で活躍する職人さんとのつながりも増えていったそうだ。

河口:長良川デパートは、はじめはウェブサイトを立ち上げ、実店舗を2016年にオープンしました。私は前職で店長経験があったので、実店舗については私が任されることになりました。やることが増えていくにつれて、本当に大変すぎ・・・!という状態もあったのですが、わたしにとってこの仕事のやりがいは、“商品の向こうに作った人がいるから”だと感じています。

「長良川てしごと町家CASA」和傘づくりが体験できる工房エリア

“この商品からまちの魅力を知ってほしい!”そんな思いを原動力に店長を務められていると想像していたが、河口さんはまちの魅力だけでなく、その奥で関わる人まで頭に思い浮かべている。“商品の向こうにいる作り手”とは、河口さんにとってどんな存在なのだろうか。

河口:私自身、大学時代に染織を学び織物を作っていたので、作る側の気持ちがわかる分、私だから伝えられることもあるはず…!と感じていて、それが自分の強みだと思っています。目の前にあるものは和傘だけど、その向こうにいる職人さんや、この商品を作っている作り手の方がどんなふうに商品と向き合っているか、どんな思いで作っているのか、その背景まで商品を手に取った人に届けたい。そのために頑張りたい。私にとってはこの思いが大きな原動力になっていると感じています。

商品を通して、自分の育った地域のことを知ってほしい

長良川デパート、長良川てしごと町家CASAで扱うどの商品も、長良川から派生した背景やストーリー、職人さんの思いが詰まっているからこそ、接客時にはその背景をしっかり伝えていきたいと河口さんは語る。

河口:長良川デパートに来ていただいたら、商品を通して長良川流域の文化を知ってもらいたいと思っています。もちろん観光で長良川を訪れる人にはみんなぜひうちに足を運んでほしいなあと思いますが、地元の人にこそお店に立ち寄ってほしいと思います。

お土産ショップというと、多くのお客さんが観光に訪れた県外の人で、思い出としてその土地の商品を買う。勝手なイメージで長良川デパートも観光客中心のお店だと思っていたため、「地元の人にこそお店に立ち寄ってほしい」と話す河口さんの言葉に驚いた。“地元の人にこそ”そう語る中にはどんな思いがあるのだろうか。

河口:お土産でモノを渡す時って、きっとその商品について説明すると思うんです。だからその時に地元(長良川)の話が広がっていくといいなと思っています。

長良川の上流にある郡上市生まれの郡上下駄

河口:例えば、郡上下駄(上の写真)にしても、この郡上下駄が何で出来てる?どういう風に作られてる?というところまでは、どんな店でも接客時に伝えていると思います。でもそこからさらに、「郡上下駄は、郡上踊りの時に履くために作られたもので」、「郡上踊りっていうのは郡上八幡という地域で伝わる盆踊りで、お盆の時は徹夜で踊るんですよ」という地域の説明までしてほしいとお店のスタッフに伝えています。お土産を渡すときに地元の人が商品とともに、自分の育ったまちのストーリーまでを知り、相手に伝えることで、お土産品を受け取った人が“そこに行きたいな”と思うきっかけになったらうれしいです。長良川デパートにはそういう役割もあるなと感じています。

商品を通じて、自分の育った地域の文化や歴史を知ってほしい、自分のまちについて話してほしい、そんな思いを話してくれた河口さん。何気ないお土産話の時間も、“私の地元にはこんな景色があって、こんな素敵なものがあるんです”と自分の言葉で話してみると、まちについて少し誇らしくなったり、まちのことに興味が沸いてきたりする。そんなきっかけからまちに対する愛着、シビックプライドが少しずつ芽吹いていくのかもしれない。

地域のストーリー、人の思いが発信され続ける場所

最後に、移住者ならではの視点で岐阜の魅力を発信し続ける河口さんに、あらためて「河口さんにとって、このまちはどんな存在ですか」と伺ってみた。

河口:人とのつながりが心地よい場所だと感じています。やはり、場所が良くても人が合わないと楽しくないだろうし、続けられないだろうし。ORGANという環境に身を置いているからこそ、今たくさんの方に出会えているので、すごくありがたいです。仕事が大変な時でも、商品を通して職人さんのことを考えると、「この商品すごいでしょ」、「ここがこんなに素敵なんだよ」と職人さんの思いを自分から伝えたくなる。エネルギーが湧いてくるんです。やっぱり、ここにいる人とのつながりが私のやりがいだし、このまちの居心地の良さだと思います。

職人さんの話をした瞬間、パッと河口さんの表情が変わった。日ごろから商品を販売するだけではなく、商品の奥にいる作り手の存在を感じ、人とのつながりを大切にしているからこそ「岐阜には何もなくない」と、地元の人に熱い思いで発信できるのだろう。そんな河口さんから商品が生まれた背景、地域のストーリーを教えてもらった人が、商品とともにほかのだれかにこの土地と作り手の思いを伝えていく。長良川デパート、長良川てしごと町家CASAからは、そんな素敵な連鎖がこれからも続いていくのだろう。

編集後記

わたしにとって「旅の楽しみ」といえば、そのまちの景色を見ること、そのまちの特産物を食べること、そのまちの商品を買うこと、そして何より、そのまちで暮らす人と話すことだ。
今回の岐阜取材でも、地元の定食屋さんでお店のお母さんと話したり、タクシーの運転手さんと話したり、そういった何気ないやりとりが、振り返ると一番温かい思い出になっていたりする。

河口さんのインタビュー後、長良川デパートでどうしても何か買いたくなったわたしは、オリジナルの「鵜飼」のポストカードを購入した。
取材から数ヶ月が経った今も、手に取ると河口さんが話していた長良川の文化の話を鮮やかに思い出せる。

ただ商品を買う、だけではなく、その土地で暮らす人と話す。
話すことで、地元でなくても、まちと自分の距離がぎゅっと近づくような感覚がある。
そのまちに行っただけではなく、“そのまちを少しでも知っている”きもちになることは、まちと人の関係の中でやはり大切なことだと、改めて感じた。

 

*長良川デパートで購入したオリジナルポストカード・ポチ袋

(取材・文:八木)

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