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TOPTALK&INTERVIEW『SHIRO』が自社工場の半分に、みんなの居場所をつくったワケ

2024.02.27

『SHIRO』が自社工場の半分に、みんなの居場所をつくったワケ

企業と市民“みんな”で真剣に思い描いたこのまちの姿
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コスメティックの人気ブランドとして注目されている企業『SHIRO』が手掛けた、「みんなの工場」という名の新しい工場が北海道砂川市にオープンした。(詳細はこちら

調べていくと「みんなの工場」は、SHIROが砂川市民と、活動に興味を持つ全国の人々と一緒になって取り組んだ「みんなのすながわプロジェクト」によってつくり上げたという。「みんなの工場」に「みんなのすながわプロジェクト」―名称だけでも“みんな”を大切にすることへのこだわりを感じるが、企業と市民という立場のちがう人たちが“みんなで”ひとつのプロジェクトに取り組むのは、そう簡単なことではないはずだ。
なぜ、SHIROはそれを実現できたのだろうか?その理由が気になって、砂川に足を運んだ。

お話を伺ったのは、みんなの工場の施設長である武田さんと事務局の笹木さん。二人のお話から、企業が市民と一緒に取り組むことで広がるまちの可能性が見えてきた。

※文中敬称略

 

「砂川市立江陽小学校」の跡地につくられた「みんなの工場」。
かつて子どもたちが学び、遊び、笑顔で溢れていた場所を再び笑顔溢れる場所にしていくという思いが込められており、
小学校の面影を残す門柱が残っているのも印象的。

    • 武田 浩平(たけだ こうへい)さん
      株式会社シロ みんなの工場 施設長
      北海道出身。2011年入社。複数の部署で多くの経験を積み、製造に精通していることから、2021年7月より市民が主役のまちづくりプロジェクト「みんなのすながわプロジェクト」に参画。正解がない様々な意見や考えを受け入れながら、よりよいものを目指すことが大きなやりがい。今後もみんなの工場は進化し続けるため、現在も多数のプロジェクトに奮闘中。
    • 笹木舞子(ささき まいこ)さん
      株式会社シロ みんなの工場 事務局
      北海道出身。市民が主役のまちづくりプロジェクト「みんなのすながわプロジェクト」をきっかけに2021年10月再入社。みんなの工場の事務局を担当。プロジェクト推進は初めてのことだが、挑戦しがいがあることばかり。持ち前の明るさでプロジェクトを次々と開拓し、プロボノなど異業種の多くの人と関わりながら、プロジェクトをかたちにできることがやりがい。

企業として、砂川への恩返しがしたかった

創業当時から工場が砂川にあったSHIRO。事業拡大に伴い、必要な製造数が増えたことで、それまでの工場から移転・増床を決めたと言う。新しい工場の移転先として道外という選択肢もあったようだが、砂川への思いが強かったと武田さんは話す。

武田:SHIROが質の高い製品をつくる上で、豊かな自然の恵みを受けた砂川の水が欠かせませんでした。また、前身の会社であるローレルがこの地で創業したこともあり、創業以来、砂川の人や企業にはずっと支えられてきたという経緯があります。工場を移転するこのタイミングに、この土地にもまちの人にも恩返ししたいという思いがあったんです。

移転先は同じ砂川市内だが、あらためてもっと砂川というまちを知る必要があると考えたSHIROは、砂川に関わる様々な人に話を聞いたそう。そんな中で出会ったのが、砂川市議会議長の多比良さん。多比良さんから話を聞く中で砂川の現状を知ったプロジェクトメンバーは、まちの存続に大きな危機感を抱いたと言う。

武田:多比良さんとお会いしたときに、砂川市の人口が現在約1万6000人(2023年当時)のところ、AIで見ると50年後には約1万人を切るという数字が出ていることを知りました。そのような砂川市の現状に対してSHIROができることとして、この工場をただ単に製造工場として建設するのではなく、人が集う場にしていきたいと考えました。

武田:一方で、これから先も砂川市が存続するためには、集客だけを目的にするのではなく、移住や通勤などでこのまちに根付いてもらうことが重要ではないかと思いました。市民一人ひとりがまちとの関わりを持って、砂川市のありたい姿を想像し、実現するために自分に何ができるかを考えていく必要がある。そこで、市民の皆さまと一緒にこの場所のあり方を考える「みんなのすながわプロジェクト」を発足しました。

市民の声をまずはすべて受け入れ、一緒につくり上げていく

SHIROはプロジェクト開始にあたって地域説明会を実施し、市民がまちに何を求めているのか、ワークショップや座談会を十数回実施したと言う。企業という立場で市民と一緒にプロジェクトを進めていくことに、課題や難しさはあったのだろうか。

笹木:プロジェクト初期に開催した、「市民が誇れる施設」がテーマのワークショップで、地元住民と移住者、観光客の分断についても意見が交わされました。その中で、「人気なお店ができると、私の地元は混んでしまうのではないか」と心配する市民の皆さまの声を聞いて。正直、「店舗をつくることが市民の皆さまの不安につながっているなんて」とすごくショックを受けたのですが、これがリアルな声だと認識しました。しかし、ワークショップを重ねて一緒に意見を掘り下げていくうちに、市民の皆さまの不安は消え、砂川というまちへの期待感へと変化していったんです。その変化を目の当たりにしたことで、プロジェクトでは対話を重ねることを大切にしました。

武田:プロジェクトの地域説明会や市への説明は、時間をかけて丁寧に行いました。またプロジェクト自体も参加者と一緒に取り組んでいかないと、本当の意味での我々が実現したい「持続可能なまち」をつくっていくことは難しいと感じていて。そのため、ワークショップでは私たちが市民の皆さまに何かを伝えたり教えたりするのではなく、市民の皆さまの声を積極的に聞いて、お互いを理解し合う場づくりを意識してきました。

「市民への説明会」というと、企業側が一方的にやりたいことを伝えるだけだったり、説明があるのはプロジェクトのスタート時だけで、そのあとはプロジェクト終了まで何の説明もなかったり、ということも多い。でもSHIROは説明会やワークショップ、座談会を通して、施設内外のイメージを一から市民と考えるワークショップを実施したり、市民がプロジェクトに入りやすい接点を多くつくっていた。企業と市民が一緒に取り組むプロジェクトだからこそ、お互いがフラットに話し合える土壌をSHIROはひとつずつ丁寧につくり上げてきたのだ。

主語が「自分」から「みんな」に。対話する中で変化した市民の意識。

ワークショップを重ねていく中、市民の意識にも徐々に変化が生まれていったと言う。武田さんは、「みんなの工場でどんなことしたい?」というテーマで議論した時のことが印象的だったそう。

屋内施設でやりたいことのディスカッションからイベントの企画など、さまざまなワークショップが実施された。

武田:最初は、ファストフード店や漫画喫茶がほしいという話もありました。でも、どのまちにもあるようなチェーン店をつくるのは、ちょっと違うと思ったのです。個人の私利私欲だけではなくて、さまざまな立場の人が継続的に訪れたい場所をつくるということを念頭に置いて何度も対話しました。すると、市民の皆さまのアイデアの主語がどんどん「自分」から「みんな」に変わっていったのです。

さらにワークショップの回数を重ねるごとに、「こんなこともやりたい!」と市民からアイデアが出てきたり、市民の自発的な動きも増えたりしていったようだ。

武田:工場のラウンジにあるライブラリーも、市民の皆さまの発想から生まれたものです。本が欲しいというわけではなく、みんながそれぞれ自由に過ごせる場所が必要かもしれないという意見がきっかけでした。みんなの工場内には至るところにそういった市民の皆さまとのアイデアが詰まっています。

ラウンジの一角にあるライブラリー:壁面には1300冊の本と雑誌が並び、その場で読むことも購入することも可能。
この日も子どもから大人まで自由に本を手に取り、ソファでくつろぐ姿が見えた。

笹木:「わたしのアイデアが採用された!」となると、その内容に対してやり遂げる責任感も生まれてきて。ワークショップに参加した人の中には、現在みんなの工場のスタッフとして働いてくれている人もいます。

武田:SHIROのメンバーだけでは思いつかなかったようなアイデアに何度も助けられました。みんなの工場に携わる人が増える分だけ、企業自体もどんどん成長していくのだなと思います。

工場をつくるだけではなく、未来の砂川をみんなでつくっていく

2021年6月からプロジェクトが始動し、2023年4月にオープンした「みんなの工場」。オープンから半年が経過した今、訪れる人にとってどんな場になっているのだろう。(※2023年10月取材時点)

笹木:みんなの工場には幅広い年代の方が訪れてくださっています。この間は、ライブラリーのソファでおばあちゃんがくつろいでいて、声をかけると「ここは心地が良くて寝ちゃうわ」とおっしゃったり。もともと、“居心地の良い場所”を目指していたので、それが実現したのだと感じてすごく嬉しかったですね。

最後に、武田さん、笹木さんに砂川に対する思いを伺ってみた。

武田:入社してから砂川市に住み、毎日通いながら学ばせていただいた場所なので、本当の故郷ではないけど、今の自分の考え方があるのもこのまちのおかげだと思っています。また、この土地の資源や人に支えられたことでSHIROというブランドが生まれた場所です。SHIROにとっても自分自身にとっても砂川市は、今までもこれからも大切な場所ですね。

笹木:今回のプロジェクトで「みんなの工場」ができましたが、これで終わりではないと思っています。この先10年、20年と、施設を通して市民の皆さまが自分たちのまちと関わり続けていける場所にしていきたいです。子どもも大人も、遊ぶ人も、働く人も、動物も植物も、そしてお客さまも、みんなが共存し、考え、未来に循環していける施設になれば。これからもみんなでまちづくりをしていけたらと思っています。

このプロジェクトには、企業が市民とより良く協働するためのヒントがたくさん詰まっているが、特に重要なポイントは、市民自身が“まちにないものは自分たちでつくれる”ということを実感できたことだと思う。これまでは、「シビックプライドがある人がアクションを起こせる」のだと思っていたが、市民が「自分もアクションを起こせるんだ!」という可能性を実感することで、自らまちに関わろうとする気持ち(シビックプライド)が芽生えるきっかけになるのかもしれない。このプロジェクトで得た体験は、今後も市民の背中をそっと押してくれるだろう。そんな砂川の未来を想像するとわくわくし、砂川というまちからますます目が離せない。

編集後記

取材中、武田さん、笹木さんに「みんなの工場内でお気に入りの場所」を聞いてみた。武田さんのお気に入りは「ラウンジにあるライブラリーのソファ」。施設のオープン前は靴を脱いでソファにもたれながらPC作業をしていたという。笹木さんのお気に入りは「施設中央の大テーブルの席」。「お客さま、製造ラインにいるスタッフ、入り口、ショップ、キッズスペース、カフェと施設内のすべてを見渡せる場所がお気に入りです。」と教えてくれた。

二人がそれぞれの場所で、思い思いに過ごす姿を勝手に想像しながら、ここを訪れる市民の方にも「お気に入りの場所」を聞いてみたくなった。そして私も「みんなの工場」内のお気に入りの場所を探してみたくなった。

まちに関わっていくことは自分の安心できる、お気に入りの場所を増やしていくことなのかもしれない。まちに自分から関わっていくことは少しハードルが高いイメージもあるが、「お気に入りの場所」を増やしていこうと思うと、少しわくわくして自分のまちを見つめることができそうだ。

(左)写真右手に見えるのが、笹木さんお気に入りの施設内中心にある大テーブル。働いている人が休憩中に腰を掛け、“お客さまと会話が広がったら”というイメージでつくられたコミュニティスペース。
(右)ちなみに私のお気に入りの場所はトイレの看板。SHIROのハンドソープのボトルに手足が付いているデザインがかわいく、一つひとつこだわりをもって丁寧につくられているのが伝わってくる。

(取材・文:八木)

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