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TOPTALK&INTERVIEW砂川の「土」と「人」が作り出す新たな特産品

2024.02.05

砂川の「土」と「人」が作り出す新たな特産品

市外出身の若手ブドウ農家が引き継ぐ挑戦のスピリット
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シビックプライドの醸成は行政がリーダーシップをとって進めるケースが多いが、その実践を担うは市民だ。また、「シビックプライド」という言葉を知らなくても、地域のために活動している人たちはたくさんいる。

今回お話を伺った北海道砂川市の髙橋里佳さん(以下、里佳さん)も、地域のために活動する市民のひとりだ。里佳さんは、砂川初のブドウ農家である東豊沼(ひがしとよぬま)高橋農場の代表として、砂川産ワインを新たな観光資源とするべく、日々精力的に活動されている。そんなシビックプライドが生み出される現場で働いている人は、日々自分の地域に対してどんな思いを持ちながらお仕事されているのか。その思いを探りに、東京のオフィスを飛び出して北海道まで取材に向かった。※文中敬称略

    • 髙橋里佳(たかはしりか)さん
      東豊沼高橋農場 代表
      北海道札幌市出身。大学にて微生物学を学び、ワイン中の微生物フローラを専攻。
      卒業後は製薬系会社に勤めるも、ワインへの憧れを諦めきれず2020年に砂川市のぶどう農園で修行を始める。2023年6月より東豊沼高橋農場の代表を務める。

先代から受け継いだ砂川発ワイナリー設立の夢

豊沼高橋農場は、砂川市唯一のブドウ農家として、ワイン用ブドウの栽培を行っている。2018年には畑で取れたぶどう(ソーヴィニョン・ブラン)を100%使用した「Grace du Ranch(グレイス・ドゥ・ランチ)」をリリース。砂川初のワインとしてふるさと納税返礼品にも指定されるなど、砂川の新たな特産品となっている。
しかし、実はこの農場は元々3代続く牧場であった。先代の高橋祥二さん(以下、祥二さん)が、酪農を引退後に友人からブドウ栽培をしないかと持ち掛けられ、牧場跡地でブドウ栽培を始めたことがきっかけとなっている。
今回取材させていただいた里佳さんは、2020年より砂川市の地域おこし協力隊として、大学のOBでもある祥二さんの元で、ブドウ栽培を一緒に行っている。

里佳:私は元々札幌市の出身でして、母校の酪農学園大学でワイン酵母の研究をしていたご縁で、大学のOBでもある祥二さんをご紹介いただきました。
最初は、砂川市の地域おこし協力隊として、祥二さんのブドウ栽培を手伝いながら、Instagramでの発信やパンフレットの作成などを行っていましたが、23年の6月には祥二さんから完全に農場を引き継ぎまして、今は農場の経営全般を行っています。

農場のブドウを使用した「Grace du Ranch(フランス語で「畑の恵み」の意)」

今は農場経営を完全に祥二さんから引き継いでいるという里佳さん。今後はこれまで外部に委託してきた醸造を自分たちで行えるよう、砂川市内にワイナリーの建設を予定しているという。

里佳:今ワイナリーを建設しようとしている用地が、砂川駅の近くにあるんですよね。農場がある場所とは違って、アクセスも良いので、一般の方も見学できるような都市型のワイナリーをモデルにしようと思っています。いま砂川といえば、SHIROさんの工場なんかが有名ですが、このワイナリーも、みんなが訪れる砂川の新たな観光地になれたらいいなと。

砂川でワイン作りを続けられる理由は「土地」と「人」

砂川初のブドウ栽培は、実はとてもチャレンジングな試みだった。元からブドウ作りが盛んな余市(よいち)や小樽(おたる)に比べて、砂川市のある空知(そらち)地方は寒さの厳しい土地。ブドウ栽培に向いている土地とは言えなかった。里佳さんも大学からワインの研究をしていたとはいえ、そのような土地での農場経営に苦労はなかったのだろうか?

里佳:確かに空知は、冬は毎年マイナス20℃まで下がるほど寒さが厳しく、ワインを育てるのは非常に難しい土地です。ただ、ここが難しいところなんですが、あまりに豊かな土地というのも、ブドウ栽培には向かないんですよ。例えば、近年は温暖化の影響でブドウの酸度が落ちて、味に締まりのないワインができてしまうことが世界的に問題になっているのですが、この地域はまだ、酸度を保った輪郭のはっきりしたワインを作りやすいという特徴があります。また、そもそも冬には雪が積もるので、木の病気の原因になる微生物の生息数を減らせるというメリットもありますね。そういった要因が重なって「Grace du Ranch」の爽やかな味わいが作り出されています。

一見すると、ブドウの生育に向いていない環境であっても、見方を変えれば、ブドウを病気から守ったり、味の特徴を作る要素になっていたりする。つまり、「Grace du Ranch」の味は砂川でしか作れない。農家の方にとってその土地でしか作れない農作物があるというのは、その土地にこだわり続ける十分な理由になるし、自分がその唯一無二の味を作っているという誇り(=シビックプライド)にもつながるだろう。

雪の重みに耐えられるようしっかり固定されたブドウの木

しかし、意外にも里佳さんが砂川でワイン作りを続ける理由は、「人」にある。

里佳:(砂川市のある)空知地方は今ワインについて先駆的に、熱心に勉強されている方が非常に多いんです。「空知ワインアカデミー」といいまして、年4回ほど勉強会を開催して、みんなで空知産ワインの品質向上に努めましょうという取り組みをしています。空知は気候が厳しいからこそ、みんなで協力しようという風土がありますね。先輩方の畑を見学させてもらったり、何かトラブルがあったとき、例えば知らない病気が発生したときにも聞いたりしやすいです。地域が同じという事は、同じ症状が出やすいという事でもあるので。

今までワインの生育に向いていない土地と言われていたからこそ、みんなで協力して良いワインを作りだしたいという気概を感じる。そういう気概を持った人が空知に引きつけられるのか、空知の気候がそういう風土を育んでいるのか。どちらが先か分からないが、どうやら唯一無二のワインの味は、この土地の気候と、そこに住むワイン農家の挑戦心・向上心が合わさって、生み出されるようだ。

「挑戦のスピリット」は先代から受け継がれたもの

里佳さんのお話を聞いていると、市外出身ながら砂川産ワインの確立のために、様々なことに取り組んでいる、挑戦心あふれる方という印象を受ける。その挑戦のスピリットは、砂川でイチからブドウ作りを始めた先代の祥二さんから受け継がれているものだと里佳さんは言う。

里佳:祥二さんが初めてソーヴィニョン・ブランを植えた当時は、道内でソーヴィニョン・ブランを作ってらっしゃる農家さんはほとんどいなかったと聞いています。元々日当たりを好む品種ですので、北海道での栽培は向いていないとずっと言われてきました。ですが、近年は北海道も徐々に温暖化してきているという事もあって、祥二さんはソーヴィニオン・ブランの栽培に挑戦したんですね。

北海道では栽培が難しいと言われたソーヴィニョン・ブラン。取材時(23年10月)にもしっかりと実っていた。

里佳:あとはこの土地も、これから新たに使用しようとしている畑も、長い歴史に下支えされた北海道の挑戦・開拓のスピリットが直に感じられますね。長い歴史の中で作られてきた土への敬意を持ちながら、その土地の歴史を私が継承していかなければならないという思いで向き合っています。

先人達から受け継いだ「土地の歴史」を継承するために

里佳さんは、祥二さんや先人達から受け継いできた「土地の歴史」を、次の世代に残す活動も精力的に行っている。出身の酪農学園大学のワイン部「ROWP(ロープ)」の学生たちには、実習の場として農場を開放し、自ら講師となってブドウ栽培のノウハウを教える。他にも普段農業に関わる機会の少ない人たちにも、ブドウ栽培の魅力を知ってもらうために、砂川市外のボランティアを「農活サポーター」として募集している。ボランティアの方々には、砂川の地域振興も兼ねて、里佳さんオススメの市内の飲食店の紹介などもしているという。

里佳:札幌などの都市圏で常日頃オフィスで仕事をしている方を対象に、ブドウ栽培や収穫を手伝ってくれるボランティアの募集をしています。
ブドウは他の農作物と違って収穫までに2年以上かかるので、栽培には時間と手間がかかります。ですが、毎年手入れしていくうちに「手間のかかる子だな、こいつ~」みたいな親の目線になって、だんだん愛着が湧いてくるんですよね(笑)。やっぱり毎年見てると顔つきも違いますし、持ったときの感触もそれぞれです。一度手入れをすると来年もお世話しなきゃっていう思いが出てきますよね。
そういった魅力も伝えたくて学生さんや農活サポーターの方々を受け入れています。ボランティアの皆さんにはぜひ「推し」のブドウを見つけてくださいと言っています。

ブドウの収穫方法について説明する里佳さん

農活サポーターの参加者の中には、遠方から毎年訪れてくれる人も多いという。もちろん、ブドウ栽培の魅力そのものに取りつかれた人もいるだろうが、手のかかるブドウたちに愛情をもって接し、「ぜひ推しのブドウを見つけてください」と言って回る里佳さんの人柄に惹かれて、毎年農場に訪れる方もきっと多いのではないだろうか。

シビックプライドとはその土地に「馴染んでいく」感覚

最後に、里佳さんにとってシビックプライドとは?という質問をぶつけてみた。

里佳:私は札幌の出身なので、札幌はもちろん、近郊の小樽や富良野(ふらの)もよく行く場所で、愛着がありました。あとは父の出身が根室で、幼少のときはよく行っていたので、根室も第二の故郷という感じで愛着があります。ただ、その通り道に位置する砂川に愛着を持つというのは正直、最初は難しかったんですよね。
でも、砂川に来て右も左も分からない状態で、先代の祥二さんに優しくしていただいたり、その中でブドウも毎年姿を変えながらも実ってきたり、徐々に行きつけのお店ができたり、ワインをお取り扱いいただくバーができたりとか…そういったスポットスポットで人とのつながりが出来ることで、徐々に砂川ってあたたかい町だなという実感が湧いてくるようになりました。
だから、血縁やつながりがない土地でも、徐々にそこに「馴染んでいく」感覚を得ることが重要で、砂川との関係性は今も作っている途中ですかね。

里佳さんが最後に語った「馴染む」という感覚。これこそがシビックプライドの「実感」に近いのだと思う。取材中、里佳さんが「作られてきた土への敬意を持つ」という言い方や、ブドウを「手のかかる子だな~と思う」など、まるでそこにある土やブドウたちと会話できるかのように話す姿が印象的だったが、これも普段から砂川の土に触れ続けている方だからこそ、生まれてきた言葉なのだろう。
私も、里佳さんのようなシビックプライドの実践者たちの活動にスポットライトを当てるという形で、彼らの活動を支援し、地域に貢献していきたい。そのような決意を新たにできた北海道取材だった。

編集後記

私は普段、広告会社の人間として日々コミュニケーションの課題に向き合っているが、それもせいぜい“言葉の通じる”人間同士の問題に過ぎないのだなと取材中にふと思った。里佳さんら農家の方々は日々“言葉の通じない”土やブドウたちと会話を試みている。だからこそ、時間がかかるし、手間もかかる。だが、ブドウたちはきっと数年後に、おいしい実となってその時の苦労に、応えてくれる。その瞬間の感動はおそらく日々苦労して、試行錯誤されている農家の方々にしか味わえないものだろう。自分もいつか、“言葉の通じない”物たちとの対話を通して、その感動を味わってみたい…ブドウたちの「可愛さ」を笑顔で語る里佳さんのお話を伺いながら、そんなことを考えていた。

(取材・文 黒田)

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