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TOPTALK&INTERVIEW小学生が街のなかからみつけた、シビックプライドのカタチ

2023.10.10

小学生が街のなかからみつけた、シビックプライドのカタチ

相模原市立富士見小学校の「シビックプライドをテーマに取り入れた授業」より
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教室に入って、すぐ目に飛び込んできたのは、壁に貼られた大きな模造紙だ。その大きな紙を埋めつくすように、たくさんの文字が書きこまれている。

ここは相模原市富士見小学校の6年生の教室。模造紙は、シビックプライドをテーマにした授業で子どもたちが得た発見や気づきをまとめたものだ、と授業を担当した荒木先生が説明してくれた。

最初「小学校でシビックプライドをテーマにした授業をしているらしい」と聞いたときは、先生が生徒に(例えば社会の授業で「三権分立とは」を説明するように)シビックプライドという“用語”を説明している光景が目に浮かんだが、この模造紙を見ると、子どもたちが実際に街に出て、話を聞き、考え、自分たちの言葉でシビックプライドを表現しようとしたことがよくわかる。

その授業の内容について、相模原市立富士見小学校の荒木先生にお話をうかがった。インタビュアーは読売広告社の社員で、「未来こども学校」など、これまで子供たちと一緒に数多くの街づくりイベントを実施してきた高木が担当。その二人の会話から、子どもたちの視点を通したシビックプライドのカタチが見えてきた。

    • 荒木真人(あらき まさひと)さん
      相模原市立富士見小学校 教諭 研究主任
      相模原生まれ、相模原育ち。教員だった父や現職教員の兄の影響を受け、2010年4月より相模原市内の学校で教員となる。
      『生活科・総合的な学習の時間』研究校である相模原市立富士見小学校での勤務は2年目。地域とのつながりを大切にした授業について日々考えている。
    • インタビュアー:高木千(たかぎ せん)
      読売広告社ビジネスコンサルティング局
      読売広告社ビジネスコンサルティング局所属。業務で子どもの教育に関わるイベントやプログラムを多数企画・運営。保育士資格とモンテッソーリ教員資格を所有。

シビックプライド教育をしよう、という意識ではなかった

高木:相模原市は、全国初のシビックプライド条例をつくった自治体ですが、この学校で最初に「シビックプライド教育をしよう」という話になったのは、どんなきっかけからなんですか?


荒木:最初は、シビックプライド教育をしよう、とは考えてなかったんです。そもそも「総合的な学習の時間」は、実社会や実生活から問いを見出す学習なので、必然的に地域の課題解決や街の活性化がテーマになると考えています。


高木:では、市から「シビックプライドをテーマにした授業をしたらどうか」という話があったわけではなく?


荒木:そういう話があったわけではなく、富士見小学校は、校長をはじめ、教員が地域とのつながりを大事にしている学校なので、これまでやってきたことの延長線上に自然と「シビックプライド」があった、という感じです。

単に「シビックプライドランキングの順位を上げよう」ではなく

高木:相模原市は以前、シビックプライドランキング調査の順位が低かったんですよね。それについて、子供たちの反応はどうでしたか?


荒木:子どもたちって順位に敏感なんですよ。「シビックプライドランキング、相模原、最下位じゃん!」となると「じゃあ順位を上げるにはどうする?」という流れになる。それは僕たち教師も想定していて、実際授業でシビックプライドを上げる方法を考えたクラスもいくつかあったんですが。


高木:荒木先生のクラスは、そうならなかったんですか?


荒木:最初は、もっとすんなり「〇〇づくりをやろう」というアクションになると思ってたんです。例えば地域の名産品を使ったお土産物をつくろう、とか。でも予想に反して、シビックプライドという言葉を世の中に広めるのではなく、街を好きでいるということ、街に誇りを持っている状態であることが大事なんじゃないかという議論がはじまって。


高木:「そもそもシビックプライドとは何なのか」という問いから考えた、ということなんですね。


荒木:はい。ただそれでも、観光客がいっぱい来ることがシビックプライドだと考える子もいたし、住んでいる人たちが街を好きになって、相模原をよくしていきたいと思うことがシビックプライドだと捉えた子もいて、そのズレは子どもたちの間にありましたね。


高木:そのズレに対して、先生はどういうアプローチをしたんですか?


荒木:一番効果的だったのは、子どもたちの発案で街に出かけていったことですね。それが大きかったです。

子どもたちが街の中で学んだこと

荒木:子どもたちが、相模原の街の人たちにインタビューをしに行ったんですよ。そこで気づいたのが「相模原を好きな理由がない人が多い」ということだったんです。子どもたちはそこに大きな課題を感じていました。


高木:好きな理由がない、というのは、相模原を好きじゃない、ということではなく?


荒木:相模原について聞くと、たいてい「好き」とは答えてくれるんです。でも「好き」と言ってくれた人に、なぜ好きかを聞いても「なんとなく好き」「住んでいるから好き」という答えが多くて、はっきりした理由がない。そのことに子どもたちが気づいて、何とかしたい、という気持ちになったようです。


高木:子どもたちのレポートを読んで面白かったのは、街の人たちに相模原について聞いたとき「僕たちに気を遣って『住みやすい』って答えてるよね」「好きって即答しなかったよね」と、街の人たちの、いわば“忖度”に子どもたちが気づいているという点でした。


荒木:そうなんですよね。だから、子どもたちが街から帰ってきた時「街の人たちが、心の底から『相模原が好き』って即答できたらいいよね」というのがクラス共通の目標になったんです。

街の人たちとの関わりで、子どもたちにおきた“変化”

高木:実際に街の人たちと関わることで、子どもたちに変化や成長を感じたりしましたか?


荒木:そうですね、普段あまり自分から意見を言ったりしない子どもが、いつの間にか自信を持ってゲストティーチャーと対等に話せるようになっていたり、これまで毎日寝坊して遅刻していた子どもが、学校を楽しみに登校するようになったりしましたね。


高木:それは何がきっかけで、変わったんですか?


荒木:やっぱり、街の人が子どもたちに対等に接してくれたのがきっかけだったと思います。例えばある子どもは、昨年度、SC相模原(相模原市のホームタウンチーム)を応援するバスツアーを企画したのですが、それに関わってくれたバス会社の方たちは、子どもたちに対して、名字で、さんづけで呼んでいたんですよ。


高木:それはつまり、大人として、人として対等に接してくれた、ということですか?


荒木:そうなんです。そういう大人の姿勢を見て、子供たちも、自分たちが本気じゃないとこの企画は実現できない、自分が意見を言わなきゃこの課題には向き合えない、と実感したんだと思います。


高木:本気の大人と直接触れ合うことで、子どもたちも変わっていく、ということなんでしょうね。

小学生が、シビックプライドというテーマで学ぶ意義とは?

高木:そういった子どもたちの成長を見てきた荒木先生にとって、小学生がシビックプライドというテーマで学ぶことの意義や価値は、何だと思いますか?


荒木:シビックプライドという言葉は、学びのきっかけや、まとめの言葉として使うのはいいと思います。でも、シビックプライドという“言葉の意味”を知ることよりも、もっと実践的な学びに価値があると思っていて。いま僕が一番大事だと感じているのは「小学生が街に関わって学習する」ことです。それは、どの学年においても必要なことですし、本来学校の勉強としてはマストじゃないと思われるかもしれませんが、僕はマストだと考えています。


高木:なぜ「街の人と関わる」ことがそんなに大事なんでしょうか?


荒木:街の人の言葉って、意識的にふれあう機会をつくらないと聞けないんですよ。子どもたちの普段の生活って、先生と、親と、友達からの言葉がほとんどだと思うんですよね。特に最近は商店街や町内会も少なくなってきていて、お店も自動化されて店員さんと話す機会もなかったり。そんな中で、街に出て、人と話すことで、街のお店がどんなことをやっているかとか、こんなことを大事にしているんだ、ということに気づくじゃないですか。そうすることで、街ともっとつながれるというか、自分の街だ、という感覚になると思うんですよね。


高木:確かに「自分の街だ」という感覚になると、その子どもたちが大きくなって、自分から街づくりに参加したり、街をよくする担い手になったりするような、いい循環が生まれますよね。僕がこれまでやってきた街づくりの仕事でも、そういうことはよくあります。


荒木:そうなるといいですよね。僕も、子どもたちが小学校を卒業するときには、学びを通じて相模原のことをもっと好きになっていてほしいと思ってやってます。


高木:このような授業は、これからも続けていかれるのでしょうか?


荒木:はい、アイデアはもうたくさん貯めてますから。

シビックプライドに関する授業内での生徒たちの発見や気づきをまとめた模造紙
シビックプライドに関する授業内での生徒たちの発見や気づきをまとめた模造紙

編集後記

僕の父親は、今はもう退職したが小学校の校長先生をしていて、僕自身も大学では教育学部に通っていた。
結局いろいろあって教師にはならなかったけれど、教えること自体は好きで、時々研修の講師をしたりもしている。
このインタビューを聞きながら、僕はずっと「教えるって、どういうことなんだろう?」と考えていた。
荒木先生の話には「教える」という言葉はほとんど使われていない。
そのかわり「関わる」という言葉が多く登場する。
子どもたちに「教える」のではなく、街の人と「関わる」ことで、子どもたち自身が自分なりのシビックプライドのカタチを見つけていく様子を、荒木先生は活き活きと語っていた。
そうか、教えるということは「知識を伝えること」以上に、「自ら探究したくなる関わりをつくること」なのかもしれない、と思った。そうやって手に入れた「自分ならではの意見」は強いし、そんな意見が、子どもたちの数だけあることを想像すると、とても楽しくなる。(取材・文:山下)

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