250店舗以上が軒を連ねる、岡山県内最大規模の商店街・岡山表町(おもてちょう)商店街。前篇では、同商店街の連盟理事長を務める片山進平さんに、商店街の活性化に向けた歩みと、これから目指すビジョンについて聞いた。続く後篇では、表街商店街に全国で初めて「分散型出店」として、小規模な2店舗を同時に開業した良品計画の「無印良品」を訪問。なぜこのまちへの出店を決めたのか、そしてここで描く展望について話を聞いた。
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森川 伸二(もりかわ しんじ)さん無印良品 岡山表町商店街の2店舗と無印良品 イオンモール岡山の全3店の店長を務める。 -
工藤 浩樹(くどう ひろき)さん株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部「遊」創事業部コミュニティデザイン課地域や商店街と連携したまちづくりプロジェクトに携わり、店舗運営の枠を超えて、地域のコミュニティ形成や商店街の活性化に関わる取り組みを推進している。
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「より良くしていこう」という気持ちを共有する空気が、商店街の力に
表町商店街を歩きながら、店先で足を止め、商店の方々や通りがかりのお客さんに話を聞いて、また歩き出す。そうしているうちに、少し先に立つ「無印良品」の旗が目に入った。良品計画は、2023年に表町商店街に2店舗を同時に開業。下之町の店舗に入ると、店長の森川伸二さんと、良品計画ソーシャルグッド事業部の工藤浩樹さんが迎えてくれた。

森川:下之町の店舗では、衣料品や服飾雑貨を主に取り扱っています。一方、県庁通りを挟んで徒歩約3分の中之町店舗では、生活雑貨や食品を中心に販売しており、店舗ごとにラインナップを分けているのが特徴です。加えて近隣のイオンモール岡山内には大型店舗を構えていて、そちらはいわゆる「品揃えの多い無印良品」として、お客さんにご利用いただいています。表町商店街内の2店舗は、いずれも売り場面積が標準店のおよそ10分の1なんです。

店舗面積が小さいことは、アイテム数が限られるという点では不利にも見える。実際に店内を見渡すと、商品は定番の衣料が厳選して並べられている印象だ。それでも、この規模だからこそ実現できていることがあるという。
森川:商店街という立地もあって、他の大型店舗よりもお客さまとの距離が近く感じられ、自然と会話が生まれるところに魅力を感じています。商店街の会合では、「無印さんなら、こんなことをしてみては」といった意見をいただくこともあって。私としては、皆さんが前向きな気持ちで、「商店街を何とか良くしたい」と思ってくださっているからこその言葉だと受け止めています。店舗とまちの皆さんとの間に深いつながりがあり、商店街をより良くしていきたいという思いを共有できている。それ自体が、この商店街に出店していることの魅力の一つだと思います。
交流の積み重ねが生んだ、表町商店街への出店
そもそもなぜ、無印良品は表町商店街に出店したのか。それは、良品計画がかつて、2022年に閉店した表町の商業施設「岡山ロッツ」に店舗を構えていたことに遡る。
森川:当時の店長が、表町商店街理事長・片山進平さんと継続的に交流していました。無印良品では、「つながる市」というイベントを全国で企画していて、表町商店街でも開催していたんです。「つながる市」とは文字通り、無印良品が地域と“つながる”ことを目的に、地元産品を扱う企業や事業者を集めて行っているイベントで、商店街で複数回開催し、まちの方との交流も重ねてきました。そうしたなかで、岡山ロッツからの退店が決まり「次の拠点をどうするか」という話になった時に、商店街側から声をかけていただきました。

工藤:無印としては、商店街サイズの路面店は全国的にも事例が少なく、得意か不得意かでいうと、得意な方ではありません。ただ、表町商店街ではまちの方々とのつながりが生まれており、お声がけをいただいたことをきっかけに、無印良品としてどのような価値を出せる挑戦ができるか、社内で検討を重ねました。その結果、商店街内の回遊を促し、活性化につなげたいという思いから、全国で初めて分散型出店という形で、2店舗を同時に開業することになりました。
森川さんが着任したのは約1年前。商店街との関係を現場で引き継ぎながら、現在は岡山表町商店街の2店舗とイオンモール岡山店を含む、計3店舗の店長を務めている。
森川:前任者の時代から交流を重ね、率直に話せる関係ができていたからこそ、実現できることがあると感じています。私が店長に着任して片山さんにご挨拶に伺った際、「ご自身のやるべき仕事でお忙しいと思うので、無理に商店街の関わりに入らなくていいですよ」と言われたことが、とても印象に残っていて。その一言で気持ちがとても楽になったんです。そこから逆に「今の自分にはどんな関わり方ができるのか」を考えて、少しずつ動けるようになりました。関わりながら理解を深めていくうちに、私も、そしてスタッフもみな、この商店街やまちのことを好きになっているように感じます。
店舗が存在していること自体が、地域活動の一つ
岡山表町商店街の2店舗とイオンモール岡山では、売り場面積も商品のラインナップも異なる。良品計画として、それぞれの店の役割分担をどのように考えているのだろうか。
工藤:前提として無印良品には、店舗の規模によって役割を分ける考え方はありません。大きい店でも小さい店でも、どの店舗も地域の「コミュニティーセンター」となり、日常生活を支える存在になることを目指しています。そのうえで、地域それぞれが抱える課題の解決を進めるために、結果的に担う機能が少しずつ変わってくると考えています。

店舗の規模や立地にかかわらず、地域にとっての「コミュニティーセンター」を目指す。ではその「コミュニティ」を、社内ではどのように定義しているのだろうか。尋ねると、意外な答えが返ってきた。
工藤:コミュニティの定義は明確には決めていません。これはあくまで個人的な考えですが、答えがないからこそ、考え続けること自体が一つの答えだと思っています。定義してしまうと、正解が一つに固定されてしまう。そうではなく、考え続ける中で生まれるさまざまな捉え方の重なりが、結果として答えに近づいていく。そういう意味では、コミュニティを重視するビジョンを掲げている表町商店街から学ぶことや得られる知見は、非常に多いと考えています。
あえて定義を設けない姿勢は、店舗運営においても同様だ。
森川:地域の人にとって必要なお店とは何か。その問いに対して一つの正解を定めず、考え続けることそのものが答えだという気持ちで、店舗に立っています。大前提として、お店が存在していること自体が地域活動の一つであって、商店街の中で無印が存続し続けることに意味がある。表町商店街の店舗をなくさずに運営すること。それが、私の最大のミッションです。
事業として関わる主体が多いほど、地域は持続可能になる
良品計画では、空き店舗を活用した小規模出店の事例は全国的にも多くない。現在、商店街の活性化に寄与する目的も合わせて運営している店舗は、岡山市と前橋市の2地域のみ。ソーシャルグッド事業部の工藤さんはそれぞれの店舗に伴走しながら、地域との連携を支えている。
工藤:前橋の商店街では、店内に地域の情報を集めて掲示していて、地元の方からも好評です。こうした取り組みは、岡山でも同様に展開できればと考えています。一方の地域でうまくいった施策を、別の地域でも試せるのは、複数拠点で運営しているからこその強みですね。表町商店街は長い歴史がある場所なので、地域の大学生などと連携し、歴史を紹介するパネルを店頭に設置するなどの企画も検討しています。こうした情報発信が、これまで商店街に足を運ぶ機会のなかったお客さんの来店につながることを期待したい。今後は、無印良品だからこそできることを、さらに突き詰めていきたいと思います。
表町商店街と連携した取り組みは、すでに商品として形になっている。地元の老舗和菓子店がこし餡を製造する際に出る小豆の皮を、染料の一部として活用した再染色のシャツ「染めなおした服(小豆)」を販売。無印良品が店頭で回収した白いシャツを染め直しており、一点ごとに異なる風合いをもっている。現在は、岡山表町商店街の2店舗とイオンモール岡山のみで販売中だ。


全国に展開する無印良品の店舗数は、700店舗にのぼる。(2026年2月末現在)数多くの地域や店舗を見てきた立場から、表町商店街という場所をどのように捉えているのだろうか。
森川:私はこれまで東京、福岡、大分など、さまざまな地域で店長を務めてきましたが、この商店街ほど地域活動に深く関わっている店舗は珍しいと感じます。店長業務と並行して地域活動を進めるのは、どうしても時間や労力がかかる。ただ、ここには片山さんをはじめ、信頼できる商店街の方々がいるので、一緒に動いていける安心感があるんです。
工藤:全国のさまざまな事例を見ていると、活気のある商店街には共通点があるように思います。それは、商店街組合の関係者だけで運営しているのではなく、外部の人や組織も加わっていることです。たとえば学校行事も、以前はPTAだけで運営していたものが、いまは地域団体や外部スタッフの力を借りて成り立っているケースが増えていますよね。関係者だけでは担いきれない役割を、外部の担い手が補う。そういう意味では表町商店街でも、私たちのような事業会社が、事業活動の一環として地域活動に関わっています。地域自体の持続性を高めるためには、いろいろな関係者がかかわることが必要なのではないでしょうか。
地域側の明確な目標に、数値やデータを重ねる
企業が持続可能な形で地域活動に関与していくためには、その意義と経済合理性、すなわち利益につながる道筋を見出すことが欠かせないだろう。

工藤:企業の時間軸では、一般的に2〜3年で事業として成立するかどうかが一つの判断基準です。一方で、地域活性化の取り組みは5年、あるいはそれ以上の時間がかかり、継続する胆力が求められる。この3年ほどかけて、土台づくりを進めてきました。
工藤さんは店舗運営の効果測定について、いくつかの指標を検討している。たとえば、商店街周辺の人流データや国勢調査データと連携し、商店街全体のおおよその売上推移を把握する。また、商店街の役員の人数や店舗の従業員数、イベントの来場者数やSNSのフォロワー数などの変化から、コミュニティや経済の状態を一定の範囲で可視化できるとみる。
工藤:ただ気をつけたいのは、そうした指標やKPIを設計しようとすると、どうしても企業側の論理が前面に出てしまい、地域にとっては押しつけなりかねないこと。前提として、地域側に明確な目標やビジョンがあり、それを補足する材料としてデータがある。そして、それらを改善する取り組みが連動していることが重要です。
企業活動として当然求められる目標を追いながら、その過程や実績をどう可視化していくのか。その問いへの答えもまた、コミュニティの定義と同じように、考え続けていくものだと工藤さんは最後に語ってくれた。
工藤:そもそも商店街は、日常の中でいかに、そしてどれだけ使われるかが大事です。そういう意味では、日用品を扱う私たちは相性がいいはず。この表町商店街に構えた2つの店舗を深掘りしていき、良品計画として何がどこまでできるのかを探っていく。並大抵のことではないと思いますが、この店が続いていくことと、商店街の力になれること。その両方を目指して、地域の皆さんと一緒に考え続けていきたいです。
取材後記
これからの商店街に求められる「コミュニティ」の価値を考え続ける
地元が香川県高松市で、瀬戸大橋を渡れば1時間足らずで着く場所ということもあり、岡山駅周辺は学生時代から馴染みのある場所の一つ。1月のよく晴れた日曜日、かつての景色と重ね合わせながら、駅前から表町商店街商店街をゆっくりと歩きました。若い人たちが楽しそうに会話をしていたり、新しい本屋が一角に4店舗も立ち並んでいたりと、いまの自分が歩いても素直に楽しいと思える商店街が広がっています。
話を伺った表町商店街理事長の片山さんには、これまで多くのメディアで「全国最年少理事長」などと取り上げられていたこともあり、勢いのあるリーダーという印象をもっていました。ですが実際にお会いすると、いい意味で先入観を覆され、地に足がついた姿勢で言葉を丁寧に選びながら、一つひとつ確かめるように話される姿が印象に残りました。
つい勢いで手を挙げて理事長に就任したり、「シビックプライドという言葉の理解はまだあまり深くない」と率直に語られていたり。けれど、その姿勢や行動こそが、シビックプライドが指すものをすでに実践している。静かな語りの奥に熱い思いを秘めながら、冷静に状況を見つめる。そんな姿に、この商店街で生まれ育った人としての誠実さを感じ、どこか商店街の空気とも重なるように思えました。
一方で、この商店街に無印良品を出店した良品計画もまた、「地域のコミュニティーセンター」としての店舗のあり方を模索し続けながら、地域との関係性を丁寧に積み重ねています。
企業が地域のコミュニティづくりにどのように関わるのか。その問いもまた、今回の取材を通して強く意識したテーマの一つでした。工藤さんは「地域活性化の取り組みは5年、あるいはそれ以上の時間がかかり、継続する胆力が求められる」と言います。
すぐには成果が見えにくく、売上にも直結しにくい地域活動に、企業が関わる意味とは何か。その先にどのような変化が生まれるのか。地域活性化を、関わる人の“熱量”だけではなくサステナブルな“仕組み”としてつくっていくためには避けて通れない問いです。編集部でも議論のテーマとして度々上がっているこの問いについて、今まさにその答えを探るための新たな指標作りに、良品計画も取り組み始めていました。
400年の歴史を重ねてきた商業空間として、この商店街のコミュニティ価値をどのように次へつないでいくのか。どの指標で変化を捉え、何を大切に育てていくのか。商店街で皆さんにお話を伺った私もまた、その問いについて考え続けていきたいと思います。
(取材:山下/文:土橋)
