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2024.06.27

Vol.2 “住み心地の良さ”だけでは街への愛着は育たない!?

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2023年12月に発表したヨーロッパ、アメリカ、アジアにおける主要都市に居住する市民を対象にした「グローバル・シビックプライド調査」(詳細はこちら)。ここでは、調査を担当したリサーチャーが自分の“推しデータ”とともに、調査を通して“個人的に”感じたことや考えたことを語ります。

Vol.2の今回も、前回に引き続きリサーチャーの関が担当します。

 

Vol.1では、日本の2大都市である東京と大阪のシビックプライド評価は、世界的な主要都市と比べて低いという結果と、「街について知っていることが少ない」ことがシビックプライド指標の1つとしている「街への共感の低さ」に影響しているのでは?!という仮説をご紹介しました。

ただ、とは言いつつも世界的にみても、趣味・学び・健康・医療・仕事、といった暮らしの活動にアクセスしやすく、利便性が高いと思われる日本の2都市のシビックプライド評価がなぜここまで海外都市に差をつけられてしまったのでしょうか?今回Vol.2では、その背景についてさらに考えていきたいと思います。

  • 関 紀和
    都市生活研究所 リサーチディレクター
    2017年よりシビックプライド関連の調査を担当。まだ幼い息子のライフスタイル・行動を尊重し合わせたところ、東京近郊の電車移動&駅巡りが休日の活動に。訪れた駅構内から出ることはできず街探訪もさせてくれないが、その駅空間だけでもその街ならではの空気感が感じられたり、発見や面白味があると思うようになってきたりしている。

格差あり?落ち着かない?ネガティブイメージがあるのにシビックプライドが高い都市もある

Vol.1で『自分の住む街にあてはまると思うもの(街の環境・施設・文化・行政など)』の結果についてご紹介しましたが、調査ではそれに加えて、自分の住む街に対する抽象的なイメージワード(「わくわく」「ゆったり」「スマートな」など約40項目)についても質問しています。
こちらがその結果ですが、各都市の上位イメージワードをみていくと、ニューヨークは「幸せ・わくわく」、パリは「面白い・幸せ」、上海は「先進的・ブランドイメージが確立された」となっています。

では、日本の2都市はというと、海外都市が「わくわく」「面白い」「きれいな」「先進的な」といった何か明確な特徴を示すワードがトップにくるなか、やや総合的な印象の「住み心地がよい」がトップとなりました。
また、全体的にそもそもスコア自体が低いという傾向はこちらの質問でもみられました。(ヘルシンキも同じく「住み心地のよい」がトップですが、そのスコアには大きな開きがあります。)

さらに私が興味深いなと思ったのは、「パリ」や「ベルリン」においては、上位のワードに「落ち着かない」や「住民や地域の格差を感じる」といったネガティブなワードも入っており、その比率も30%~40%くらいと小さくない割合を示したところです。
「落ち着かない」や「地域格差を感じる」市民が3割も4割もいるパリやベルリンですが、Vol.1でご紹介したように、シビックプライド総合評価は日本の2都市よりも上位のランクにありますし、前回記事でポイントの1つとなる指標としてあげた「街(のあり方)への共感」については、「パリ」も「ベルリン」も日本の2都市よりもおおよそ15ポイント以上も高い評価となっています。

“住み心地の良さ”だけではシビックプライドは育たない!?

良い環境・スペックがある街は、便利で快適で住みやすいかもしれません。一方で、ここまでの調査結果をみていると、市民がその街に愛着や共感や誇り(シビックプライド)をもつかどうかというのは、住みやすさだけでは足りなくて、

  • まずは市民が街を知る(知ることができる・知りたくなる)
  • そのうえで、市民が自分なりの街の評価ができる
  • そしてどこかその評価を受け入れてくれる街の雰囲気がある


という“市民と街のインタラクティブな関係性”が存在していることが、とても大事なポイントであるような気がします。
パリやベルリンのような、ネガティブなものははっきりとネガティブだと言い切れる、という調査結果は、“自分はこう思う”を受け入れてくれる・自己表現できるという、シビックプライドが醸成される土台があるという1つの証拠なのではないでしょうか。

ちなみにこのことについて、個人的には「子の成長」とどこか共通点を感じてしまいました。
子育て世帯というコミュニティを例に、子の成長発達や愛着形成に関する知見からいくつか要素をピックアップすると、以下のようなポイントがあると思います。

  • 子がコミュニティ/周囲の事象を見て・知って・理解する(知識を得る)
  • 子はコミュニティ/周囲の事象に対して自分なりの意見を言えるようになる(自己主張するようになる)
  • コミュニティ/周囲がその子の考え(どんな考えであれ)を尊重する
  • 子はコミュニティに帰属心や愛着を形成する


これらをざっくり要約すると「知って、考えて、表現して、認められる」のサイクルがとても愛着形成において大事、ということになります。子育て世帯というコミュニティを彩る環境(住まいのスペック・利便・年収・・・など)があっても、結局それはメインにはならない――つまり、さきほどの街のスペックは街への愛着形成へのメインにはならない、ということに近しい感覚かと。 なお、この例から考えると “(どんな考えであれ)子の考えを尊重する”が最終的なコミュニティへの愛着形成にとても影響を与えるポイントになるかと思います。子育て世帯というコミュニティであれば家族が面と向かって伝えることができますが、街と市民に置き換えると、街が多様な市民を尊重していることをどう伝えるのか?どうすれば実感してもらえるのか?ということが、シビックプライドを育む上でもとても大きな課題になってくるのかもしれません。

日本的なシビックプライドってなんだろう

ところで、最後にとても根本的なところ、「そもそも、別に街を好きにならなくてよいのでは?好きになって何かいいことがあるのか?」ということがあります。かくいう私も別に無理に街を知って、街を大好きになって、ということは必要ないと思っていますし、このような仕事をしておきながらプライベートでいわゆる街づくりに積極的に関わったこともありません。
5年前に都市生活研究所で実施した自主研究では「シビックプライドと幸福(ウェルビーイング)との関係性」が示唆されていますが、もちろんシビックプライドだけがひとの幸せを左右するものでもないでしょう。

ただ、何かワクワクする気持ちが湧いてくる瞬間が、自分の街での暮らしの時間のなかにも点在しているというのは事実かと思います。いままで利用したことがなかった地元のお店に行ったら案外よかった、住宅街の隙間からよい景色をみた、子どもが泣いて困っているところ声をかけてもらった、などちょっとだけでも街を知った=“街に触れる感覚”を体験した、そんな時、自分では気づいていなくても心が動いていることがあります。
そんな心の動きにつながる体験を、毎回たまたま・偶然だけではなく、たまにはちょっとだけ意図的に“触れ”にいってもいいかなと思います。その結果、まあ今日も楽しかった、みたいな自分では気づかないけどちょっとした暮らしのウェルネスにつながるのであれば。
むしろ、自己表現が苦手な人が多いといわれる日本であれば、それくらいがちょうどいい市民と街との関係性なのかもしれませんし、その過程で少しずつ潜在的に芽生えてくるのが日本的なシビックプライドの捉え方の1つなのかもしれません。

(文:関)

■ご興味ある方に、調査の詳細結果や、海外8都市に住むリサーチャーが現地の暮らす住民として感じるシビックプライド(インタビューコメント)について掲載した『グローバルシビックプライド調査レポート』をPDFファイルにてご提供しています。 レポートご希望の方は「CONTACT」からお問合せください。

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