■南阿蘇鉄道は、南阿蘇村の「立野駅」から高森町の「高森駅」までの10駅・7kmを結ぶローカル鉄道。阿蘇の雄大な山々や田園の景色を眺めながら乗車でき、春から秋にかけてはトロッコ列車も走り、観光客にも人気がある。
■2016年の熊本地震で甚大な被害を受けたが、2023年7月に全面開通。熊本地震の被災後も地元の人たちの思いに支えられて復興を果たしたように、今も昔も地元に根付き、愛されている。
■南阿蘇鉄道の各駅には改札がなく、特撮コレクションを展示したジビエカレー店、アメリカン・アンティークな喫茶店、景色を眺めながら本が読める古本屋など、個性的な“世話人”が運営している駅舎が多い。「長陽(ちょうよう)駅」にある駅舎カフェ「久永屋」もその中のひとつ。佐賀県出身の久永さんが、南阿蘇の自然に魅せられて2006年に開業。地域の人たちと一緒につくり上げた駅舎やプラットホームには、手作りの椅子やテーブル、遊具が置かれ、観光客だけではなく、地元の家族や子どもたちが集う憩いの場になっている。
観光客や地域の人たちとの関係を育み続ける、店長(兼 管理駅長)久永さんの阿蘇への思いが詰まった駅舎カフェ
昭和3年に建てられたレトロな趣のある「長陽駅」。その駅舎を抜けた先にあるプラットホームには、地域の人たちが電車に乗るでもなく世間話をしたり、子どもを遊ばせたり、まるで自分の家の縁側や庭先でくつろいでいるような風景がありました。
南阿蘇鉄道「長陽駅」の駅舎カフェ「久永屋」は、店長であり、管理駅長でもある久永さんの南阿蘇への感謝の気持ちと、「地域の人たちが集まれるカフェをつくりたい」という思いによってつくられた場所です。
村役場からカフェの開業を許可されたものの、老朽化でボロボロになった駅舎を改修する資金がなかった久永さんは、カフェの改装費を貯めることと、地域との関係を作るために、子どもの頃から作るのが得意だったケーキの訪問販売を開始します。ケーキの売上をもとに自分の手で店舗の改装をしているうちに、その様子を見ていた地元の大工さんたちが手伝ってくれるようになり、どんどん仲間が増えて行ったそうです。ちなみに、看板メニューの「資本ケーキ」という名前は、駅を改修するお金がなかった久永さんにとって、シフォンケーキが「久永屋の唯一の資本」だったことに由来しています。
久永さんが始めた駅舎改修に地域の人たちが関わったことによって、久永屋は地域の人たちに愛され、地域の人たちに育まれる場になって行きました。駅のホームであるにもかかわらず、縁側や庭先のような風景が広がっていたことが、久永屋が地域の人たちにとって、居心地のいい“自分たちの居場所”になっている証なのだと実感しました。
また、久永屋は地域のことを思う子どもたちを育む役割も担っています。アルバイト店員の上田さんも久永屋に育まれた子どものひとり。友達と遊びに来ているうちに、小学2年生の頃から久永さんと一緒にトロッコ列車の観光客を楽しませる活動をするようになり、今は自ら自慢のコーヒーを入れ、訪れる人たちをもてなしています。これからも南阿蘇を離れることは考えていないそうです。
子どもの頃から地域との関係性を育むことが、地域に対するシビックプライドを醸成することに繋がっている。久永屋は、地域の人たちに育まれながら、地域の人たちの愛着や誇りを育むという、シビックプライドが好循環する場所になっているのだと思いました。
▼店長の久永さん(右端)とスタッフの皆さん。左端が上田さん
▼今も開業当時の佇まいを残している「長陽駅」駅舎
▼地元の大工さん達と一緒に作り上げたレトロな趣の店内
▼久永さんの地域への思いが詰まった「資本ケーキ」
▼猫の被り物でトロッコ列車の乗客を盛り上げる久永さん