\株式会社ヘラルボニー 岩手事業部 シニアマネージャー・森尾洋一さんからメッセージ/
私たちが最も大切にしているのが「作家さんファースト」という考え方です。その上で、地域との協働においては、へラルボニーが目指す理念へ共感していただけていることはもちろんですが、ビジネスとして、作家さん、企業、社会の三者がともに利益を享受する「三方よし」の関係を構築できているかどうかを重要視しています。ぜひ皆さんも、障害のある作家さんたちのアートや、アートを使用したプロダクトに触れて、「誰もが生きやすい社会」を実現する仲間になっていただけると嬉しいです。
▶株式会社ヘラルボニーHP:https://www.heralbony.jp/
▶ISAI PARK HP:https://isaipark.heralbony.com/
※本記事の「障害」の表記に関しては、社会側に障壁があるという「社会モデル」の観点から「障害」と表記する、ヘラルボニーのワーディングスタンスに準じています。
■概要:「目指す未来を可視化した公園」を、盛岡の中心に
株式会社へラルボニーは、岩手県出身で双子である松田崇弥さんと松田文登さんによって2018年に設立されたクリエイティブカンパニー。主に知的障害のある作家のアート作品をIP(知的財産)としてライセンス化し、自社ブランドのほか、企業や自治体とのコラボレーションやプロダクトを通じて社会に広げていくことで、障害のイメージを更新し、福祉を起点に新たな文化の創出を目指している。
本社は創業の地である岩手県内の、盛岡市に設置。2025年には「へラルボニーが目指す未来を可視化した公園」というコンセプトのもと、盛岡市の老舗百貨店「パルクアベニュー・カワトク」の1階に「ISAI PARK」を開業。旗艦店であり、同社が国内外で展開する活動を地域に開く場として、ギャラリー、ストア、カフェ、イベントスペースを運営している。また障害のある方と協働する機会を作るとともに、地元企業などとの連携を進めている。
ストアエリアには、障害のある作家のアート作品がデザインされた商品が並ぶ
■背景・経緯:「誰もがそこにいていい」と感じられる場所を
へラルボニーの創業の原点には、二人の兄で、重度の知的障害を伴う自閉症がある松田翔太さんの存在がある。幼い頃から翔太さんに対する数多くの偏見を目の当たりにしてきた二人は「兄が幸せに生きる社会を作りたい」と考え、翔太さんが幼い頃にノートに書いていた謎の言葉「へラルボニー」を社名に掲げ、アートの力で福祉と経済性の境界を超える事業をスタートした。そうした中で、「体験」「多様性」「地域」といったテーマを軸に、障害のある作家の作品や表現に触れられるストアや、地元の季節の食材を使ったカフェ、多様なイベントを展開できる拠点として、2025年に「ISAI PARK」をオープン。「新しい一歩を踏み出すときは岩手から始める」というポリシーのもと、自社のアイデンティティを示す拠点として、誰もが「そこにいていい」と感じられる空間づくりを進めている。
翔太さんが幼い頃にノートに書いていた謎の言葉「へラルボニー」を社名に掲げる
■実績:障害への意識を変える、ISAI PARKや地域での様々な実践
「ISAI PARKでは、障害のある方が不定期でカフェスタッフとして働くほか、難病や重度障害などで外出が難しい人が分身ロボットを操作して接客を行う『分身ロボットカフェ』を期間限定で実施するなど、障害への意識を更新するための実践的な取り組みも数多く展開しています。そうすることによって普段関わることのない『見えない存在』だった障害のある方が『当たり前の存在』になっていくと思うんです」と岩手事業部シニアマネージャーの森尾洋一さんは取り組みの思いを語る。またヘラルボニーとしては、地域と連携した活動も積極的に推進しており、地元の金融機関や交通機関をはじめ、岩手県内の様々な企業とコラボレーションし、企業のマーケティング課題の解決やシティプロモーションの強化につなげている。例えば、岩手銘菓・南部せんべいの老舗である小松製菓との商品開発では、作家の作品を商品パッケージに採用したことで、購入者の半数が新規顧客となったという。また岩手銀行とのコラボレーションでは、盛岡最大の祭りである「盛岡さんさ踊り」の会場に巨大バナーを掲出し、地域の一体感を表現。森尾さんは「地元企業や自治体が抱えている解決したいけれど解決できていない課題を一緒に解きにいく伴走者のような存在でありたいんです」とへラルボニーと地域との関係を描く。
期間限定で実施した「分身ロボットカフェ」では、難病や重度障害などで外出が難しい人が分身ロボットを操作して働いた
■展望:盛岡から世界へ「ありのままに生きる社会」を拡張していく
ISAI PARKでは今後も、地域のハブとして県内のさまざまな情報を発信するとともに、音楽イベントやマルシェなどの催しを通じて、人が集い交流できる機会を広げていく予定だ。またヘラルボニーとしては、国内に800万〜1,000万人いるとされる障害のある人々の可能性に向き合うため、2026年に福祉領域に特化したヘラルボニー財団を設立。障害福祉に関する助成事業や、障害のある人の就労に関する事業の推進などを予定し、企業としての取り組みと福祉の活動を両輪で進めながら、「障害のある人もない人も、ありのままに生きやすい社会」の実現を目指している。そうした未来への歩みにおいて、ISAI PARKはまず、盛岡というまちから、障害のある人々と、そして障害のある作家による作品と、地域とをつなぎ、その協働によって障害に対する意識を更新していく重要な拠点となる。さらに現在は「そうした成果を可視化するために、今後はへラルボニーの活動が地域の人々へどのような意識の変化をもたらしているのかを分析するための調査も実施していく計画です」と森尾さん。実践によって生まれた効果や成果を調査によって目に見える形にすることで、盛岡での取り組みをモデル化。その蓄積を「確かな手ごたえ」とし、国内、さらには世界へと展開していく足がかりにしていきたいという考えだ。
(左) ISAI PARKの一角には、岩手県内のおすすめスポットやへラルボニーがコラボレーションしているスポットなどを紹介するオリジナルのカードが設置されたスペースがある。(右)「出会えたら幸運」と呼ばれている、通称へラルボニーバスを紹介するカード
取材者コメント(編集部 山下)
「誰もが当事者になれるシビックプライドとは」という問い
最初に「ISAI PARK」を訪れたとき、ふっと心が安らぎました。柔らかな光、落ち着いた色合い、漂う品の良さ……肩の力が抜け、いつまでもいたくなる空間でした。
店内には、商品を楽しそうに手に取るご夫婦、コーヒー片手に談笑する人たち、静かに仕事をする人の姿。誰もが日常の延長のようにこの場所に身を置いていて、ここが「障害のイメージを変える拠点だから」ではなく、ただ「心地よいから」訪れていることが伝わってきました。
けれど、ふと壁のノートの原本や、作品のそばにある作家の紹介文に目をやると、この空間の奥に息づく“誰か”の存在に気づきます。
心地よさを入口に、知らぬ間に作家の世界へ触れ、その作家が障害のある方々であることを知る。その出会いは静かですが、確かな心の揺らぎを残します。
日常と表現が少しずつ重なる中で、私たちの無意識のまなざしがほどけ、障害のある人の存在が、まちの自然な風景として馴染んでいく気がしました。
そしてその時、これまで「シビックプライド」という枠組みの中で、障害のある方々はどこに位置づけられていたのだろう、という考えが頭に浮かびました。
もしかすると、その枠組みの外側に置かれていたのではないか。それは、北九州市で「“まちなか”障がい支援」を実施しているNPO法人の代表を取材した時にも感じたことでした。(そのときの記事はこちら)
ヘラルボニーの取り組みは、その“外側”にいた人たちを「シビックプライドの当事者」に引き寄せるだけでなく、むしろ「シビックプライドの起点」として位置づけているように思えました。
さらに、まだ他にもこの枠組みから取り残されている人々がいるのではないか……そんな予感が静かに残りました。
誰もが当事者となれる「シビックプライド」の枠組みとは。その枠組みをつくるために、わたしたちができることとは。シビックプライドの課題であると同時に、新しい可能性につながる新たな問いをもらえた気がしました。
まちインサイト5指標で見ると...
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「ISAI PARK」を起点に、アパレル展開、コラボ商品開発、地域や企業との連携、スタッフ起用など、障害のある人が『当たり前の存在』になっていくための新しい試みを次々と実践している -
ヘラルボニーが目指す「障害のある人もない人も、ありのままに生きやすい社会」が、多様な価値観を持ったまま自分らしさを失うことなく過ごせるまち、というシビックプライドにおける誠実性指標と重なる
