\うみべのいえプロジェクトリーダー 西岡奈保子さんのメッセージ/
日本には魅力的な自然や土地がたくさんありますが、人がいなくなると、その風景を守ることが難しくなります。これからも人が自然とともに豊かに暮らし続けていくために、このまちには新しい視点や刺激が必要です。皆さんもぜひ、南伊勢町に遊びにいらしてください!
▶うみべのいえHP:https://umibeno-ie.com/
▶うみべのいえキッチンInstagram:https://www.instagram.com/kitchen.umibenoie/?hl=ja
▶暮らしの案内所Instagram:https://www.instagram.com/minamiise.kurashi/
■概要:まち全体をひとつの「家」に見立て、役割の異なる「部屋」を共有する
三重県度会(わたらい)郡南伊勢町の中心市街地・五ヶ所浦で展開されている「うみべのいえプロジェクト」は、空き家など既存の建物を活用し、地域内外の人が交わる拠点を整備・運営する取り組み。
まち全体をひとつの「家」に見立て、まちなかにそれぞれ役割の異なる「部屋」を設けている。現在は、日替わりでテナントが出店するシェアキッチン「うみべのいえキッチン」のほか、中長期の滞在や賃貸が可能な「うみべのいえリビング」、服やカバンのお直しや手仕事を行う「うみべのいえクローゼット」などを運営。
本来家の中にある機能と暮らしを、まち全体で共有、分担し、地域内外の人が自然に関わり合う場を生み出している。また、活動を持続可能なものにするため、キッチンやリビングの利用には使用料を設定するなど、ビジネスとして継続する仕組みづくりも重視している。

■背景・経緯:国立公園の自然を、人が暮らすことで守り続ける
本プロジェクトのリーダーとして活動を推進するNONKI合同会社代表の西岡奈保子さんは、大学院での研究をきっかけに南伊勢町を訪れ、人々の暮らしと自然が近接している点に関心を抱いた。
南伊勢町はまちの約6割が伊勢志摩国立公園に含まれ、「人が暮らす国立公園」として全国的にも珍しい場所。西岡さんは、この自然環境は人が暮らし続けることで維持されてきたと捉え、「自分も南伊勢で豊かに暮らしたい」と移住を決めた。
プロジェクトの拠点として選んだのは、かつて造船業や真珠養殖業を背景に地域の生活拠点としてにぎわいを見せていた五ヶ所浦の商店街エリア。近年は産業構造の変化や人口減少に伴い人通りが減少し、年々空き家が増加していた。こうした状況をふまえ、西岡さんは既存の建物を活用しながら、歩いて楽しめる拠点をまちなかに点在させることで地域に新たな人の流れを生み出そうと、2020年に「うみべのいえプロジェクト」を立ち上げた。
■実績:まちに広がる挑戦が、住民の新たな一歩を促す
うみべのいえプロジェクトでは、2020年以降、地域住民やプロジェクトメンバーとともに次々と空き家や空き店舗をリノベーションし、拠点(=“部屋”)を増やしてきた。現在は、シェアキッチンやシェアリビング、雑貨・服飾店、整骨院のほか、ネイルサロンなどがまちなかに点在し、地元住民同士の日常的な交流が生まれている。
また、これらの拠点を活用して飲食経営や販売に挑戦したメンバーが、その後町内で独立して店舗を開くなど、活動は地域の中で広がりを見せている。こうした動きは地域住民にも刺激を与え、これまで温めてきたアイデアに挑戦する人が現れるなど、新たな活動の芽も生まれているという。
■展望:交流を起点に、関係人口の創出と地域の誇りの醸成へ
今後は、「アトリエ」や「書斎」、「子ども部屋」をひらくための準備や計画を進めながら、各拠点で生まれた交流を土台に、一次産業との連携や観光振興、関係人口づくりなどへと取り組みを段階的に広げていく。その一環として、シェアキッチンや宿泊施設を通じ、町外の人が南伊勢に滞在し、地域の人々と関わる機会を増やしていく考えだ。外から訪れる人が増えることは、まちに暮らす住民が地域の魅力や価値をあらためて見つめ直すきっかけにもなる。こうした動きを通じて、関係人口の増加と地域に関する新たな仕事や活動の創出につなげながら、住民が自分たちの暮らしに誇りをもてる地域を目指していく。
取材者コメント(編集部 小関)
窮屈になりがちな「地元」を、「自分」を、更新する。
小さな町ならではの住民インサイトを捉えることの重要性
移住者である西岡さんは、南伊勢町で暮らす中で「小さいまちならではの課題」を感じたといいます。「町中みんな身内みたいなものだし、小さい頃からお互いに知っているから、“地元での自分のパーソナリティ”が固定化している。そのせいか、新しいことにチャレンジしてみたくても、身内の反応が気になって諦めてしまう」ケースが多いそう。
“目立ってしまうから新しいことを始めにくい”がローカルの人たちのネックなんだと知った西岡さんは、「だから、移住者である自分が矢面に立つことに意味がある。私が新しい活動をどんどん進めるその影にひっそり隠れるような形で(笑)、やりたいことを試すことができますから!」と語ってくれました。
そんな西岡さんの言葉を聞いて、地域における起業・副業支援の事例は世の中にたくさんある中、ここ南伊勢町の場合は「まちを一つの家に見立てる」ことが、住民のインサイト(本音、つまりは「周囲の目が気になるけれど、本当はこんなこともやってみたかった」という感覚)に効いていることに気づきました。
例えば「あなたのスキルを使って小商いを始めてみませんか?」と問われたらハードルが高く感じますが、「あなたがいつも家でやっていることを、この南伊勢町という“家”でやってみませんか?」という提案なら、なんだか出来そうな気がしてくる。「家」という見立てのサイズ感が、まちのサイズにも心理的にも絶妙に合っているのだと思います。
南伊勢町では一次産業に関わる家庭が多く、女性は長年家業を支える役割を担ってきたという背景もあり、これまで女性が自分自身のやりたいことに取り組む時間や場所を確保することは容易ではなかったといいます。ですが、今、南伊勢町では、新しい挑戦に踏み出す女性たちが増えつつあります。
取材当日、西岡さんの案内で町内を回る中で印象的だったのは、そんな地元の女性たちの存在。
「うみべのいえクローゼット」で出会った“地元のお母さん”・たまさんは、この場所で「縫いごと屋」という屋号を掲げて洋服の修繕やリメイクを行っているのですが、西岡さんに「自分の店を持つのが夢だった」と話したことがきっかけで、この場所が生まれたそうです。
たまさんに限らず、こうしたエピソードがすでにいくつも生まれていることに、このプロジェクトの真髄があると感じました。なるほど、うみべのいえプロジェクトは、地元での“自分のアイデンティティの種類”を増やす活動なのだと。(その後町内で独立して店舗を開くケースが複数生まれていることがその証)
「近所の〇〇さん」として顔は知られていても、実はこんなスキルや情熱があることまでは、意外と知られていないものです。けれど南伊勢町には、暮らしの延長で挑戦できる「うみべのいえ」という環境と、矢面に立って伴走してくれる心強い仲間がいる。だからこそ、住民は「今までとは違う別の顔」を安心してまちに見せることができる。これは、一人ひとりの個人の挑戦であると同時に、固定化されて窮屈になりがちな地元の在り方そのものを更新していく営みだといえそうです。こうした更新が絶えず行われることが、「ここに住み続けたい」という気持ちを育てるのでしょう。
まちインサイト5指標で見ると...
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「起業」や「小商い」ではなく、まち全体を「家」に見立てたことが、住民が一歩を踏み出す心理的ハードルを劇的に下げている。「家でやっている得意なことの延長」と捉え直すことで、住民が固定化された役割(家業の支え手など)から抜け出し、無理なく主体的にまちと関わる「主人公」になれる体験を生み出している。 -
「お互いを知りすぎているからこそ目立ちたくない」という、小さなまち特有の窮屈感からの脱却。移住者の伴走と「うみべのいえ」という安心できる環境があるからこそ、住民はまちの中で「新しい顔」を出し、アイデンティティを増やすことができる。個人の自己更新が、結果的に地元の在り方そのものを風通しよく更新している。
