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TOPCIVIC PRIDE ACTION一覧「ことばのちから」をキーワードにしたまちづくり/ことばのちから実行委員会

愛媛県松山市|2000年〜

「ことばのちから」をキーワードにしたまちづくり/ことばのちから実行委員会

階段にも、街灯にも。まちに溶け込んだ“ことばの風景”が、地域への愛着を育む
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■概要:目に見えない“ことば”を資源と捉え、まちで多様な事業を展開

愛媛県松山市では2000年から、「ことばのちから」をテーマにしたまちづくりを推進している。同活動は、松山市役所内の「文化・ことば課」と、多様な市民で構成される「ことばのちから実行委員会」が中心に取り組み、テーマを設け全国から30文字以内の言葉を募る「だから、ことば大募集」を定期的に開催。優秀作品は、松山城や道後温泉、商店街や港など市内各所に掲示され、まちを歩くと階段や建物の柱などに刻まれた言葉に出会える。これらの言葉は、事前の申請を経ると誰でも使用できる仕組みとなっており、市内の企業や学校が広告や広報物に用いるなど、地域全体での活用が進んでいる。また、毎年2月には、小学生から大学生までが参加し、合唱のように言葉をみんなで読み上げる群読コンクールを開催している。

 


松山市内の各所には「こんな言葉があったよ」と思わず誰かに伝えたくなるようなメッセージが掲示されている

 

■背景・課題:松山の日常に根差した“精神性とことば”を、まちづくりの中心へ

松山市では2000年、21世紀に向けた新たなまちの姿を構想するため、当時の市長の発案で、市民主体の委員会「松山21世紀イベント協議会」が設立された。職業も立場も異なる多様な市民が参画し、松山の未来像について議論を重ねた中で、数々の俳人を輩出し、歴史に残る文学作品の舞台にもなっている「文学ゆかりの地」という歴史的資源に着目。目に見える施設設備ではなく、松山で歴史的・日常的に培われてきた精神性や「ことば」を、まちづくりの中心に据える方針が示された。この方針のもと、市民をはじめ、全国から言葉を募り、市内各所に掲示する取り組みが始動。当初は3年間限定のイベントとして構想されていたが、その盛り上がりと意義が高く評価され、継続を望む声が高まったことから、2003年には「ことばのちから実行委員会」が発足。現在も多様な施策が展開されている。

 

■実績:全国から2万点以上の“ことば”が集まる〜松山は“お湯とことばが湧いています”〜

松山市では10年に一度、特定のテーマを掲げて全国から言葉を募る「だから、ことば大募集」を実施している。3回目となる2020年には、全国47都道府県と海外10の国と地域から過去最多の2万2440点の応募が寄せられた。また、松山で始まった「俳句甲子園」は、全国の高校生が参加する文化振興イベントとして定着し、次世代への俳句文化の継承に寄与している。さらに、地元企業との連携も盛んに行われていて、路面電車の車両に市民から寄せられた言葉を掲示した試みは、観光客からも反響を呼んだ。このような取り組みの積み重ねにより、市内では言葉が“景観要素”として定着。ある市民は「松山はお湯とことばが湧いています」と表現し、この言葉自体もまちに掲示されている。一連の活動は、2013年のグッドデザイン賞や、2015年度ふるさとづくり大賞における総務大臣賞の受賞など、外部からも高く評価されている。

 


市有施設「北条ふるさと館」の入り口には、
コロナ禍の2020年に開催された「だから、ことば大募集」で大賞を受賞した言葉が掲示されている

 

■展望:言葉を生かしたまちづくりの更なる推進

ことばのちから実行委員会では、委員が交代する際に推薦制度によって新たなメンバーを迎え入れる体制が確立されている。今後も松山の歴史や文化、そして言葉に関心を持つ市民を中心に、取り組みを継続・発展させていく。一方、市としては、夏目漱石と正岡子規がともに暮らした唯一の場所である愚陀佛庵(ぐだぶつあん)や、1800年に建造された庚申庵(こうしんあん)史跡庭園といった市内の文化施設を活用した文化啓発事業やイベント開催によって、「ことばのまち」としての松山の魅力をより広く発信する方針だ。

 
 

取材者コメント (編集部 山下)

帰りたくなるまちには、迎えてくれる言葉がある

 

別件の取材で松山を訪れた際、まちのあちこちに様々な形で言葉が掲出されていて(なんと松山城に登るリフトの落下防護ネットにも!)、「まるでまちのなかに言葉が散りばめられているようだ」、と感じました。その体験がきっかけとなり、今回、ことばのちから実行委員会の皆さんにお話を伺うことになりました。

 


リフトに乗ってゆっくりまちを眺めると、地上にいるときとはまた違う景色が見えてくる

 

松山は、正岡子規や高浜虚子をはじめ多くの俳人を輩出し、夏目漱石『坊っちゃん』や司馬遼太郎『坂の上の雲』の舞台にもなった、文学とゆかりの深いまちです。市政100周年を機に創設された「坊っちゃん文学賞」からは、「そして、バトンは渡された」で本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんをはじめ、多くの作家がデビューしています。そうした歴史・文化的背景を生かし、市民から募った“言葉”をまちづくりの柱に据え、市役所内に「文化・ことば課」という専任部署を置いていることに、自治体としての独自性と“粋”を感じました。

 

一方で、言葉を軸にした施策は、経済的な数字のようにわかりやすく「成果」として捉えることが難しいのではないか、という疑問も浮かびます。その点を尋ねたところ、実行委員会の前委員長であり、現在はアドバイザーを務める五百木(いおき)幸子さんが、印象的なエピソードを二つ紹介してくださいました。

 

ひとつは、群読コンクールに出場した小学生の話です。学校ではほとんど発言をしなかった児童が、群読のソロパートを任されたことで自信を得て、「自分の才能を見つけた」と語るまでに変化したといいます。
もうひとつは、県外に進学した大学生が、市内のあちこちに言葉が掲示されていることは「当たり前」であったものの、県外に出て初めて、それが特別な風景であったと気づいたというエピソード。帰省の際、港に掲げられた言葉を目にし、「嬉しく、誇らしい気持ちになった」と話していたそうです。数字には表れませんが、確かに存在する“言葉がもたらす力”を示す象徴的な出来事だと感じました。

 

シビックプライドの取材をしていると、まちへの思いを言葉にすることの「しにくさ」を感じる時があります。謙遜だったり、シャイだったりして、心の奥では愛着や誇りを感じていても、言葉にする機会があまりないのです。

 

でも、このプロジェクトのように、言葉にする機会を数多くつくると同時に、それをまちなかに散りばめることで、まるで、言葉にのせて発信した誰かのまちへの思いが反射して、自分の心に入ってくるような感覚や、自分の思いを代弁してくれているような気持ちになる。そんな体験がたくさん生まれているのだと思いました。

 

松山では、言葉が市民や来訪者の目に自然とふれる存在になっています。そうした言葉は、このまちが何を大切にしているのかという価値観や姿勢を映し出す“メディア”としてはもちろん、その言葉一つひとつに触れる体験の積み重ねが、人々の心に地域の愛着や誇りを育くむ“言葉の景観”になっているのかもしれません。

    

\ことばのちから実行委員会 正岡昇委員長メッセージ/

ことばのちから実行委員会では、「ことばのちから」をキーワードにした様々な取組みを行っています。松山市のブランドスローガン「幸せになろう。」に関するメッセージ募集など、最新の活動情報は公式HPに公開しています。ぜひご覧ください。ぜひ松山へお越しいただき、まちを歩きながら心に響く「ことば」との出会いを楽しんでください。

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