\静岡銀行の鈴木さんからメッセージ/
毎年さまざまなテーマを設けて取り組んでいる『アオハルし放題』ですが、この企画に完成形はなく、常に試行錯誤を続けています。中高生と地域企業のコラボレーションやワークショップのあり方についても、「こんな形もあるのでは?」というアイデアがあれば、ぜひ全国の皆さんから教えていただけると嬉しいです。
■概要:静岡に“還元”できるビジネスを考える
『アオハルし放題』は、静岡銀行が2020年に開始し、地元の中高生チームが企業とともに地域の課題や魅力を探究しながらビジネスについて学ぶ取り組み。収益化を必須要件としながら、「静岡に還元できるもの」という視点で3か月かけて新商品やサービスを企画。アイデアを形にしていく過程を、“人財育成”やシビックプライドの醸成につなげている。
■背景・課題:若者の県外流出が県全体の課題に
静岡県では若者の人口流出が喫緊の課題となっている。静岡銀行は、地域を知る機会を広げることが長期的な目線で若者の定着、ひいては地域の活性化につながると考え、本プログラムを企画した。学生にとっては地域の魅力にふれながらビジネスを学ぶ場に、地域企業にとっては普段は接点のない業界やサービスにも目を向け、学生の新鮮な発想と出会える場になっている。

キックオフイベントの冒頭で「皆さんは静岡のことが好きですか?」と会場に投げかけた、静岡銀行Shizuginship(次世代経営者塾)事務局長の鈴木さん
■実績:学生ならではのアイデアが地域でカタチに
プログラムは年に1度開催され、これまでに約70校・約300人の学生が参加し、生まれたアイデアは外部からも高く評価されている。2024年度には、静岡県立下田高校の高校生が、地元の課題であった獣害対策として、鹿や猪を捕獲し調理・提供する提案が、農林水産省主催「第9回ジビエ料理コンテスト」で農林水産大臣賞を受賞。実際に地元ホテルでジビエ料理が提供されるなど、成果が具体的な形として現れている。
■展望:企業と学生がつながり続ける仕組みを目指して
プログラムは参加者の満足度も高く、学生と地域企業が互いに学び合える場として定着し、今年度で6回目を迎えた。静岡銀行が運営する次世代経営者塾「Shizuginship」事務局長の鈴木瞬介さんは「最終発表会では各班が真剣に考え抜いたアイデアを皆で共有する。その時間そのものが大きな財産」と語り、今後は学生と地域企業が継続的につながる仕組みづくりを検討している。

「質の良いアイデアを出すために、まずはたくさんのアイデアを出そう」というアドバイスのもと、学生も積極的に発言する
取材者コメント (編集部 祖父江)
地域金融機関が育む、静岡と次世代をつなぐネットワーク
夏休みシーズンの8月、第6回『アオハルし放題』のキックオフイベントが開催されました。会場を歩くと、熱気に包まれた空気のなかで、学生たちが企業担当者に向かって堂々と意見を伝えたり、笑顔で議論を交わしたりする姿が飛び込んできます。そのエネルギーはまさに「青春の瞬間」を切り取ったかのようで、このプログラム名を実感させるものでした。
プログラムの合間には、参加学生たちが他チームのメンバーと語り合ったり、連絡先を交換したりする場面も見られました。さらに、大学卒業後に静岡へUターンし、本企画の運営に携わる第1期生の姿もあり、つながりが着実に広がっていることが伝わってきました。地域金融機関である静岡銀行がハブとなることで、県内各地の中高生と企業が結びついている――その意義を実感しました。
印象的だったのは、参加企業の大人たちの変化。学生の若さと真剣さに触れることで、大人もまた新しい視点を得て、それが日常の仕事にも還元されていく。そこにこそ、このプログラムの真価があるように思いました。
「アオハル」という言葉には、単に青春時代を指すのではなく、“心の持ちようでいつからでも始められる”という意味合いがあります。学生も企業も、互いに触発されながら新しい挑戦を生み出していく――そんな前向きなエネルギーが、この企画には確かに息づいていました。
事務局長の鈴木さんは「地元出身者でも意外と静岡のことを知らない。私自身静岡出身でここが好きだから、もっと多くの人に魅力を知ってもらいたい。『アオハルし放題』がその機会になれば嬉しい」と話し、その真っ直ぐな言葉には、静岡への愛着が自然とにじんでいました。