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2025.01.29

Vol.4〈ベルリン篇〉移民都市ベルリンのシビックプライド調査から見えてきた、人口減少の日本に必要なこと

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2023年12月に公開されたヨーロッパ、アメリカ、アジアにおける主要都市に居住する市民を対象にした「グローバル・シビックプライド調査」(詳細はこちら)。ここでは、調査を担当したリサーチャーが自分の“推しデータ”とともに、調査を通して“個人的に”感じたことや考えたことを語ります。
Vol.4の今回はリサーチャーの水本が担当。ドイツの首都ベルリンの調査結果をご紹介します。
ベルリンは約190か国の多様な国籍を持つ外国人が暮らす都市で、その数は人口の約25%を占めます(2024年6月現在 出典:ベルリン・ブランデンブルク統計局)。世界中からさまざまなバックグラウンドを持つ人々を引き寄せる多様性豊かな国際都市ベルリンのシビックプライドの現状から、日本が参考にすべき取り組みを探ります。

  • 水本 宏毅
    都市生活研究所 エグゼクティブリサーチディレクター
    福岡県大牟田市出身。高校生の頃に「めんたいロック」にハマり、大学上京後にバンドを組むも東京色に染まり挫折。それでも、多数のミュージシャンを輩出している福岡の音楽文化には、今でも愛着と誇りを感じている。共著「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(2019年 東京法令出版)

欧米7都市で最下位だったベルリン市民のシビックプライド

ヨーロッパ、アメリカ、アジアの主要10都市に居住する市民を対象にした「グローバル・シビックプライド調査」の総合ポイントで、ベルリンは東京や大阪よりは高いものの、欧米の都市の中で最も低い8位という結果になりました。(表-1)

表-1:世界10都市の「シビックプライド」総合ポイント

また、住んでいる街に対する「愛着」、「共感」、「誇り」というメイン3指標に加え、「継続居住意向」、「他者推奨意向」でも全体平均を下回り、中でも「誇り」(平均値75.6%→62.5%)と「他者推奨意向」(平均値74.0%→60.0%)が10ポイント以上低くなっていました。(グラフ-1)

グラフ-1:ベルリンのシビックプライド指標 全体平均比較

都市への「憧れ」だけではシビックプライドは育たない?

この結果について、ベルリンに20年以上在住している日本人の現地リサーチャーに聞いてみました。

“ベルリンは他のドイツの都市に比べて、とにかく自由なので、移民に加え、南ドイツやイタリア、スペインなどから、特に若年層が移住してきます。そういう人たちにとって、ベルリンは何年間か住んでみたい、興味のある都市であって、シビックプライドを感じる対象ではないという感覚があるからではないでしょうか。”

移民や移住者に対して寛容で自由であることが、多くの人を惹きつけるものの、逆にシビックプライド評価を押し下げることになっている……都市に対して関心や憧れがあっても、市民だという意識が低いからシビックプライドが高まらないのではないかという意見に、東京に惹かれて福岡から上京したものの、東京に対してそれほどシビックプライドを持てていない私は納得してしまいました。

分断の歴史や格差がシビックプライドのマイナス要因に⋯

また、ベルリン市民に「自分の住む街にあてはまると思うイメージ」を聞いたところ、「住民や地域間の格差を感じる(35.6%)」というネガティブな回答が2番目に多くに見られました。(表-2)

表-2:自分の街にあてはまると思うイメージ上位7項目

ベルリンは、1961年から1989年まで「ベルリンの壁」によって東西に分断されていた都市です。現地リサーチャーによると、「ベルリンの壁」崩壊によってイデオロギーの異なる市民が交じり合うようになって35年が経ち、地域間格差がかなり解消されてきたにもかかわらず、今度は海外の富裕層が投資の一部としてベルリンの住居を売買するようになったため、家賃が高騰し、住みにくくなっているそうです。それがベルリンの、特に経済的に貧困だった旧東ドイツ地区に住む人々のシビックプライドを押し下げている要因になっていると思われます。

また、ベルリンに憧れて移住してきたものの、経済的に恵まれない若者の不満も背景にあるのではないかと思われます。格差は「自分は社会から排除されている」という感覚を引き起こすため、地域社会の一員である「市民」という自覚を持てなくしてしまうばかりか、社会的不和を高め、紛争の引き金になりかねません。このことは、人口減少と労働力不足が課題となっている日本も他人ごとではありません。技能実習生の労働環境や外国人労働者の生活支援体制の不備が問題となっているように、海外からの移住者を、単に労働力不足を補う存在と見るのではなく、市民として受け入れ、シビックプライドを持てる社会にすることが求められるのではないでしょうか。

ベルリン市民のシビックプライドの要因とは?

ベルリン市民が、ベルリンのどのようなところにシビックプライドを感じているのか、その要因を分析するために、「シビックプライド・モデル」(表-3)を作成したところ、「地域コミュニティ(自らが音楽演奏できる屋外屋内の場所や施設がある)」「自治体支援(市民活動や地域のNPO活動が盛んである)」「環境景観(公園が整備されている)」が、「愛着」、「共感」、「誇り」につながっているという構造が見られました。

表-3:ベルリンの「シビックプライド・モデル」

それぞれの評価の要因となっていると思われる事例を具体的に見てみましょう。

市民参加を促すコミュニティ組織「フェライン(Verein)」

「NPO活動が盛ん」という評価の要因として考えられるものに、「フェライン(Verein)」というドイツならではのコミュニティ組織があります。「フェライン」は、日本でいう「協会」、「同好会」、「NPO法人」にあたる組織で、サッカーチームなどのスポーツや趣味、地域保護、社会福祉、文化、芸術など、ドイツ全体に60万以上の大小さまざまなフェラインがあります。フェラインは地域住民と強く関わっていて、しかも会費が安いので、複数のフェラインに所属する人が多いそうです。また、フェラインには移民や国内外からの移住者など、誰でも入ることができます。

ノンプロフィット(非営利)のフェラインが数多く存在する背景について現地リサーチャーに伺ったところ、自分たちで協力し合って住みやすいまちをつくって行こうという、ドイツ人の強いボランティア精神があるのではないかとのことでした。特に、異なるイデオロギーを持つ市民同士が理解し合う必要があるベルリンにおいて、フェラインという地域コミュニティに市民参加を促す取り組みは必要なことなんだろうと思います。(フェラインだけで、住民間や地域間の格差まで解消するのは難しいのかもしれませんが……)

公園や農園など、公共空間を使いこなすベルリン市民


次に、「公園が整備されている」という評価の要因について見てみます。ドイツには、「民衆公園(Volkspark)」という、ドイツの市民教育や、環境、衛生に関わる生活改革の思想に基づいた公園が整備されています。現地リサーチャーによると、ドイツの中でもベルリン市民は外にいるのが好きで、お金をなるべく使わず、自分たちがやりたいことに合わせて公園を活用しているそうです。

例えば、「マウアーパーク」は高校生や大学生、20~30代の若者が集まる場所として有名で、バンド演奏やバーベキューパーティをする人が多い公園です。調査では、「愛着」に結び付く項目で「音楽演奏ができる場所がある」という評価が高かったのですが、ベルリン市民は公園だけではなく、工場跡地や教会の前の広場など、公共空間のさまざまな場所で演奏を楽しむ人が多く、自治体の許可も厳しくないそうです。

若者でにぎわう「マウアーパーク」

この他にも、「テンペルホーファー・フェルト」という空港跡地の公園は、ローラーブレードやスケートボードといったスポーツのほか、自転車に乗ったり、犬を散歩させたりという使い方をされています。私は約2年前にこの公園を訪れたのですが、滑走路がそのまま残っている、とにかく広大な公園で、面積は386ヘクタール、東京ディズニーランドの7.5倍ほどあります。暗くなると出口が分からず、危うく遭難しそうになりました(笑)。

これだけの敷地が残っていると、日本では民間デベロッパーによる開発が行われ、商業利用されることが多いのですが、ベルリンの中心に位置しながら、2008年に空港が閉鎖された後も再開発されることなく、手付かずの状態で残っていることに驚かされました。都市における“余白”が都市と市民との関係性をつくる上で重要視されているんだなと感じさせられました。

滑走路がそのまま残っている「テンペルホーファー・フェルト」

また、ベルリン市民は庭のないアパート暮らしが多いので、「クラインガルテン」という庭付きの小さな家を借りて“都市農園”を楽しむ人が多いそうです。その他にも、ベルリンには都市農園が至るところにあります。私は、「プリンセスガーデン・コレクティブ・ベルリン」という墓地に併設した都市農園を見てきたのですが、そこは、市民がガーデニングに関わるワークショップやイベントに参加したり、地産の野菜を提供するガーデンカフェで食事をすることができるなど、都市農園がみどりの景観づくりやコミュニティを通じて都市と市民との関係性を築く場になっていました。

市民のコミュニティの場となっている「プリンセスガーデン・コレクティブ・ベルリン」

海外からの移住者がシビックプライドを持てる社会がこれからの日本の課題になる

ベルリンは、分断の歴史を抱え、多くの移民や移住者を惹きつける自由で寛容な国際都市であるがゆえに市民としての意識が浅く、当事者意識に基づく自負心であるシビックプライドを押し下げているのではないかと推測されます。調査の結果、欧米都市の中では最下位となりましたが、ベルリンでは、「フェライン」というコミュニティ組織や公園、パブリックスペースなど、誰もが参加できる「場」を用意することが、シビックプライドの醸成につながっていることが「シビックプライド・モデル」から明らかになりました。それは、憧れの都市に留まることなく、「愛着」や「共感」を育むためには、地域社会に主体的に参加できる機会や場が必要だということを物語っています。今後、人口減少にともない、多くの外国人を受け入れて行くことになると思われる日本も、“海外からの移住者がシビックプライドを持てる社会”を目指す取り組みが必要となりそうです。

(文:水本)

<参考>
■「マウアーパーク」公式HP
Freunde des Mauerparks e.V. | Informationen aus und rund um den Berliner Mauerpark
■「テンペルホーファー・フェルト」公式HP
Tempelhofer Feld
■「プリンセスガーデン・コレクティブ・ベルリン」公式HP
prinzessinnengarten kollektiv berlin | (prinzessinnengarten-kollektiv.net)

■ご興味ある方に、調査の詳細結果や、海外8都市に住むリサーチャーが現地の暮らす住民として感じるシビックプライド(インタビューコメント)について掲載した『グローバルシビックプライド調査レポート』をPDFファイルにてご提供しています。 レポートご希望の方は「CONTACT」からお問合せください。

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