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TOPTALK&INTERVIEW話題のシティプロモーション公式アカウントの「中の人」に聞いてみた

2023.10.17

話題のシティプロモーション公式アカウントの「中の人」に聞いてみた

相模原市が目指すシティプロモーションと情報発信のあり方とは?
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21年3月に日本で初めて「さがみはらみんなのシビックプライド条例」を制定した相模原市。ここにある“みんな”って誰のことなんだろう?気になって条文を見てみると「相模原市内に居住し、通学し、若しくは通勤する人、相模原市と何らかのつながりがある人又は相模原市に関心のある人第2条(3)」と定義されている。

実際に相模原市は地元出身のロックバンド[Alexandros]やモデル 冨永愛さんを表紙に起用したシティプロモーションブックの発行、地元出身の声優 畠中祐さんやアイドルマスター ミリオンライブ!とのコラボキャンペーンなど、まさに市内外の“みんな”に向けて相模原市の魅力を伝える施策を多く行ってきた。

特に個人的に印象に残ったのが、X(旧Twitter)アカウントでの積極的な情報発信だ。私は業務でSNS運用にも関わるが、自治体の公式アカウントでこれほどフランクにユーザーとコミュニケーションを取っている自治体はなかなか見られない。そんなシビックプライド推進の担い手である市の担当者はどんな思いでこれらの施策を行っているのか。公式アカウントの運用を担当する観光・シティプロモーション課の通称「中の人」さんと、課長の市橋さんにお話を伺った。 ※文中敬称略

    • 市公式SNSの「中の人」さん
      相模原市 市長公室 観光・シティプロモーション課 シティプロモーション班 主事
      X(旧Twitter)「相模原市シティプロモーション(@Sagamihara_PR)」運用者
      平成28年相模原市役所入庁。各種PR事業の企画、運営、ブランディングを担当する傍ら、市公式SNSを運用。過去には市の観光行事の開催支援や地場産スイーツの魅力発信事業、市公式観光ガイドブックの企画制作を担当。趣味は映画鑑賞、好きな音楽はヒップホップ。
      X公式アカウント
    • 市橋 剛輝さん
      相模原市 市長公室参事(兼)観光・シティプロモーション課長
      平成4年相模原市役所入庁。行政改革推進課では行政評価や市民満足度調査を企画・実施、都市計画課では政令指定都市移行後の都市政策、経営管理課では公共施設マネジメントなどを担当したのち、高齢・障害者支援課長、管財課長を経て現職。趣味はフライフィッシングとキャンプ。

作って終わりではなく、「どう発信していくか」もセットで考える

相模原市は前述の公式アカウントでの積極的な発信を含め、自治体の中でも市のプロモーションにかなり力を入れている印象だった。そのため、まず市のプロモーションを担うお二人の所属である観光・シティプロモーション課について伺った。

市橋:令和2年、商業観光課の観光振興班と、シティセールス親善交流課のシティセールス班が一緒になって観光・シティプロモーション課になりました。市長は、市内外に相模原市の魅力を発信することが大切だと考えておりまして、課としてもプッシュ型で相模原の魅力を発信していこうということになっています。

中の人:私の場合、入庁して商業観光課の観光振興班に配属され、そのまま観光・シティプロモーション課に移行しました。今はシティプロモーション班の一員としてSNSやコラボ企画などを担当しています。部署名に「シティプロモーション」が付いたことで、事業を実施するだけでなく、いかに知っていただくかということが大切で、そのためにはどう発信していくのか、その先の出口まで見据えて事業を創らないといけないという意識を持つようになりました。

「シビックプライド」という言葉を広めることが目的ではない

その様な経緯で設置された観光・シティプロモーション課だが、相模原市が条例を制定して既に2年が経つ。市民の中でどれだけ条例の認知や市や地域に対する意識の変化があったかが気になるところだが、担当のお二人は意外にも「シビックプライド」という言葉自体の広がりは気にしていないという。

市橋:これは私の個人的な意見かもしれないですが、「シビックプライド」という言葉が浸透することが目的ではないなというふうに思っています。例えば、応援しているスポーツチームや好きなアーティストのことは別に対価がなくても、その魅力をみんなに知ってほしいという気持ちになると思うんですね。それと同じで、相模原のことが好きで愛着を持っていれば、自然とみんなにいいところを知ってほしい、そのためにもっと良くしていこうと思うものだと思います。私としては、市のイベントやキャンペーンなどあらゆる機会を通じて、あらためて市の魅力に気付いていただき、「シビックプライド」という言葉は知らなくても、実態として「シビックプライド」の醸成に繋がるといいなと思っています。

“「シビックプライド」という言葉が浸透することが目的ではない”ーその言葉は、対外的な発信に力を入れて、日々市民の方々と交流している相模原市の職員だからこそ、出てきた言葉なのではないか。企画に対する反響は、「中の人」さんも公式アカウントの運用を通して直接感じられているようだ。

中の人:アイドルマスター ミリオンライブ!と相模原市のコラボキャンペーン*1では、コラボカードに写った市内のスポットをご自身で訪れ、SNSに投稿していただくという企画も実施しました。参加者の方の投稿を見ると、それぞれのスポットが魅力的だった、楽しかったという感想が添えられたものが多数ありました。感想を投稿することで当選確率がアップするルールではなかったので、きっと、本当に魅力に触れていただけたのだろうなということが感じられ、市内スポットの秘めた魅力を私たち職員が見つめ直す機会にもなりました。

THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.

*1令和5年2月23日から3月12日にかけて、「空と宇宙(ソラ)」をテーマに相模原市の魅力を全国に届けるために相模原市が実施した「アイドルマスター ミリオンライブ!」とのコラボキャンペーン。X上では、フォロー&ハッシュタグ付きの投稿で、立ち寄った市内スポット数に応じた賞品が当たるプレゼントキャンペーンを行っていた。

事業は出口まで考えて、見る人に“驚き”と“親近感”を与えることが必要

「中の人」さんのお話を聞いていると、事業を作って終わりではなく、常に出口を考えながらお仕事をされている、そんな印象を受けた。一流企業と肩を並べられるようなプロモーションを、と語る「中の人」さんは、実施する企画には “驚き”と“親近感”が必要だと続ける。この考え方には、彼女のバックグラウンドが関係しているようだ。

中の人:学生時代は商店街の活性化に関する研究をしていたのですが、その中で、私が考える地域貢献には市役所が合っていると思い、市の職員になりました。最初に配属された商業観光課では地域の方々と近い距離で接することが多くて、地域の方々ってこう思っているんだということを知る機会になりました。その後、観光・シティプロモーション課に移って、作るだけでなく、出口も考えないといけないという意識を持つようになりました。例えば地場産スイーツ「さがみはらスイーツ」の魅力発信事業では、相模原市出身のプロレスラー 真壁刀義さんにスイーツを食べていただいた動画をYouTubeで公開し、パンフレットにその様子を掲載した上で、特別販売会を開催しました。さらにその後、実際にお店を巡ってくれた方にエコバックをプレゼントする企画に仕上げました。こういった展開に構成したことで、周遊を促すだけでなく、オンライン・オフラインの様々な角度から、一層話題性を持って広がるプロモーションになりました。

そう言いながら、「中の人」さんは手元にある観光ガイドブックを開きながら、そこに詰まったこだわりについても私たちに熱心に解説してくれた。

中の人:この観光ガイドブックの構成はエリアごとではなく、目的別に分けているのですが、これは、ページごと、見開きごとに切り取ってもそのままSNSの添付画像などとして、テーマごとのプロモーションに使えるようにという意図があります。また、市内の目線だとエリアで分けがちですが、市外の方が観光で訪れる際は関西とか名古屋とか、地域だけ決めてその中で好きなものを探す方も多いと思うので、そういった意味でもプロモーションを意識して作っています。またSNSを運用していると、事業へのリアクションが直で伝わってくるので、緊張感はありつつも、それがやりがいにつながっていて、今もある企画の準備を進めているのですが、それも受け手側の意識に立って、絶対に喜んでもらえるように頑張ろうって思いながら粛々と業務に当たっています。

テーマ別に分けられた観光パンフレット

自身の今までの経験をフルに活用し、相模原の魅力を市内外に!という熱い想いを持ってお仕事をされている「中の人」さんの姿に、日々の業務をこなしながら取材をしているメンバーも身の引き締まる思いだった。

“みんな“に届く発信には担当者の強い意志や想いが重要

ここまでお話を伺う中で意外だったのが、“意志”や“信念”など明確な担当者の「これがしたい!」という強い想いが言葉に表れていたことだ。取材を行う前は正直、行政の担当者はもっとドライというか、ニュートラルに回答してくるものだと思っていた…失礼ながら最後にそんな感想をぶつけてみた。

中の人:そうですね、どういう人たちがこの事業を担当しているのかが見えた方が親近感が沸くと思いますし、その先を見てみたいという気持ちにもつながると考えています。Xではユーザーと楽しくコミュニケーションを取りながら、noteでは想いを目いっぱい込めながらの発信に力を入れていて、いつも赤裸々すぎるぐらいの想いを書いています。でもそれに共感してくださる方々も多くて…実際noteの執筆は想いがないとスカスカになると思いまして、客観的にこれをやりました、今度これをやります、ではなく、どういう意図で企画を決めたのかというところまで深く語れる気持ちがないと、見透かされて、やはり相手には届かないのかなと思っています。企画担当とSNS担当の両立は難しい部分もありますが、ことシティプロモーションという分野においては、企画を創りながら、その過程を発信しつつ、込めた想いを語る記事とともにストーリー性を持って事業を展開することの利点は大きいですし、相模原市ならではだと考えています。

noteでの投稿例

市橋:強い信念と仰ってくれましたが、実際の現場は何が正解なのか手探りのまま業務に追われています。ただ、シティプロモーションは必ずしもお金をかければ効果があると限らないので、費用対効果を意識しつつ、今まで行政がやってないようなことにも臨んでいければ、という気持ちはあります。情報源が多様化しているので、市も従来の紙の広報紙やチラシ、ポスターの活用はもちろん、WEBサイトやSNSを一層効果的に活用していかなければならないと思います。相模原市のシティプロモーションのメインターゲットは転入転出の多い20代30代なので、その年代にも響く、ある意味行政らしくないアイデアと手法を活用して広報していかないとと考えています。

今後やっていきたいこと

中の人:興味・関心を持つ分野は人それぞれなので、色々な層を対象に、分野に縛られない取組をしていきたいと思っています。今まで行政があまり関わりのなかった分野とコラボすることで“驚き”も作り出せるのかなと思っています。ブレない目的と意志を持って様々な角度から立体的に事業を展開することで、一層多くの方々の心に深く、長く相模原が在り続けられるような事業を検討していきたいなと思っています。

相模原の魅力をもっといろんな人に知ってもらいたい、そんな想いで市内外へ“驚き“と”親近感“のある施策を考え発信する市の担当者。そして、それに反応し応援メッセージを送ってくれる市民や、市外のフォロワーの人たち。私ははじめ、「みんなのシビックプライド条例」の”みんな“って誰のこと?という疑問から出発したが、まさにこの関わり方こそが、行政と市民という関係性を超えた、”みんな“で相模原への想いを深めている状態なのだと思った。条例の浸透としては道半ばかもしれないが、既にそこには十分シビックプライドの息吹が宿っていると感じた。

編集後記

SNS運用において、ブランドや商品のファンを根付かせるのは本当に難しい。特にX(旧Twitter)は、運用者の人格や言葉使いが出やすいことから、運用者のセンスや時代感を捉えた発信も重要になってくる。そういう意味では「相模原市シティプロモーション(@Sagamihara_PR)」の1.6万人のフォロワー(執筆当時)も「中の人」さんの人となりに共感した“ファン”といえるだろう。取材を通して終始、「中の人」さんのSNS運用の上手さに感服すると同時に、これからは行政であっても職員の個性や人となりを前面に出した発信が広報の基本になっていくのだろうと感じた。(取材・文:黒田)

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