都市に拠点を置く大手企業が、その豊富な経営資源を活かして、地方創生に貢献しようとする事例は数多く見られる。経済が都市部に偏り、地方の活力が衰退傾向にある世の中で、こうした取り組みは意義深いものだ。一方で、持続的な活動に結びつかなかったり、地元ニーズとのミスマッチが生じたりするケースも少なくない。
そうした中で、「CIAOPANIC TYPY」「OLIVE des OLIVE」など約60のアパレルブランドや、雑貨店「3COINS」を手がけるパルグループが、昨年7月に奈良県下市町でオープンした「KITO FOREST MARKET SHIMOICHI」が、大きなにぎわいを見せていると聞き、取材に向かった。
企画から製造、小売りまで幅広く展開し、全従業員数は6300人、連結売上高は2000億円を超え、まさに大手と言えるグループの本部機能を担う同社は、下市町が創業者の出身地という縁をきっかけに、地方創生の取り組みとして「KITO」を開設。インタビューする中で見えてきたのは、企業が社会貢献に取り組む上で、ビジネス視点を重視し、“事業として成立させる”ことの重要性だった。
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井上真央(いのうえ・まなか)さんパルグループ経営企画室兼フリーゲート白浜代表カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒業後、経営コンサルティング会社に就職。2021年に家業のパルグループホールディングスへ入社し、経営企画室でサステナビリティ視点での新規プロジェクトを多数担当する。KITO FOREST MARKET SHIMOICHIのプロジェクトマネージャー。
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「通り過ぎる場所」から「旅の目的地」へ
新大阪駅から電車とバスを乗り継ぎ、2時間ほど。下市町は、桜の名所として知られる吉野山のふもとに位置する山間のまちで、土地の8割を山林が占める。懐かしい風情の商店や民家が並ぶ通りを抜けると、目的地の「KITO FOREST MARKET SHIMOICHI」が見えてきた。

廃校となった小学校の校舎を活用し、もともとの外観をそのまま活かしたという建物は、ベージュがかった白壁に、瓦屋根と落ち着いたピンク色のタイルが彩を添える。「とってもかわいいですよね、この建物」と、私たちの気持ちを代弁してくれたのが、今回インタビューに答えてくれた、同社経営企画室でKITOプロジェクトマネージャーの井上真央さん。まず、施設の概要を説明してくれた。

井上:施設のコンセプトは、「木と共に、きっと出会える」。この一帯は吉野杉の生産で栄えたエリアで、木とともにある下市町の暮らしを発信する思いと、ここに来れば何か素敵なことにきっと出会えるよ、というメッセージを込めています。校舎内には地元の食や工芸品、パルグループのアイテムなどを置くショップと、レストラン&カフェ、イベントスペースとレンタルオフィス。体育館は子どもたちが木とふれあいながら遊べる場所になっています。


木材がふんだんに使われた建物内はとても居心地がよく、商品の並べ方やオリジナルグッズのデザインなどの随所に、アパレルや雑貨を手がけるパルグループならではセンスが光る。井上さんへのインタビュー前に施設内を事前視察した際にも、いつの間にかたくさんの商品を買い物かごに入れてしまっていたほど、この空間の魅力に引き込まれた。
井上:嬉しいですね。KITOは、「通り過ぎて行かれるまち」になってしまっていた下市町を、わざわざ訪れる「旅の目的地」にしたいという気持ちでつくったんですが、実際に週末には少し離れたエリアから、ファミリーやカップルが訪れてくれるようになっています。また、毎日来てくれる地元の方がいるだけではなく、生産者さんが農産品をKITOに納めるために張り切って増産してくれたり、木工作家さんが「ここに商品を出すのが楽しい」と言ってくれたり。他にも、地域の野鳥愛好家のみなさんが写真展を開催して、遠くのエリアからもたくさんの仲間を呼び込んだりと、様々な方がKITOを使って地域の暮らしをよりいっそう楽しんでくれていることを、日々実感しています。
ビジネスとしての安定性が、持続的な社会貢献を生む
オープン当初に目標としていた年間来館者数の4万人を、わずか3か月で達成するなど、順調に地域内外での存在感を高めているKITO。下市町での地方創生プロジェクトを着想した段階から、井上さんは単なる社会貢献にとどまらず、収益性とのバランスをとることを意図してきたという。
井上:たとえそれが社会的に意義のあることであっても、ビジネスとして安定した収益を上げていかなければ、息の長い取り組みにはなりません。もっとも避けたかったのは、「新しくできたけど、すぐつぶれちゃったよね」という結果になること。地元に不要な負担をかけるだけになってしまいますからね。
だからこそ、施設の構想を固めていく段階でも、地元の声に寄り添いつつ、企業として培ったノウハウを活かし、施設でやるべきことをロジカルに追求。企画の初期段階では、2か月ほどかけて、役場職員や事業主、移住者など町民を交えてのディスカッションから始めたという。
井上:話し合ったテーマは、「今、このまちに何が必要か」というのが一つ。施設にどんな機能を持たせるべきなのかを明確にしたかったんです。これに関しては、日ごろ立ち寄れるお店も欲しいし、生産したものを売る場所も欲しいし……とさまざまな意見を聞く中で、商業プラットフォーム機能を持った複合施設という形が見えてきました。
そしてもう一つのディスカッションテーマが、「どういうまちにしていきたいのか」ということ。これは、施設を通して何を実現していくべきなのかというミッションにかかわる問いで、特にシニア層の方からは「吉野地方の玄関口、そして木材や物資などが行き交う市場町として栄えた、かつてのにぎわいを取り戻したい」という声が上がりました。にぎわっている、という状態を端的に言えば「住む人が増えている」ということになりますが、そのためにたとえば、直接的に移住者をスカウトするようなことは、私たちにはできません。だったら、移住したくなるきっかけをつくろう、ということをミッションに掲げたんです。
こうして施設の機能とミッションを明確にした上で、ターゲット層を定め、具体的な仕掛けを考えていった。
井上:ターゲット層は、未就学児の子どもを持つ30~40代のヤングファミリーで、特にお母さんに訴求することにしました。家族みんなに移住してもらおうと考えた時に、お母さんに「ここに住めるな」と思ってもらうことは必須ですし、子どもが就学すると、転校させることが移り住む上でのハードルになってしまいますからね。じゃあ、そういう方々は何があれば嬉しいだろうと考えて、飲食店やパン屋さん、本屋さんなどを入れることが決まっていき、暮らし全体を楽しくする「ライフスタイルショップ」の性格を強めていったんです。

テーブルに飾られているドライフラワーは、スタッフのお庭で育てられたものだそう。
下市町というブランドをプロデュースしていく
移住を考えてもらうためには、まず地域との接点を持ってもらうことが重要だが、一般的なショッピングモールのような施設では、そのきっかけにはなり得ない。そこで井上さんたちが考えたのが、この地域ならではの魅力を発信して、わざわざ「旅の目的地」として足を運びたくなるようにすることだった。
井上:地域の独自性を出そうとした時に、割りばしの発祥地だったり、古くから薬草栽培が行われていたり、果樹栽培が盛んだったりと、使える「ネタ」が下市町にはたくさんありました。そこで、商品開発では「木材・薬草・果実」の3つをキーワードに、地元の木工作家の方とのコラボ商品やフードに落とし込んでいきました。また、什器やスピーカーなど施設内の可能な限りのものを、メイド・イン・奈良でそろえてます。

こうした取り組みの背景には、地域外から訪れる人たちだけではなく、地元住民に下市町の良さをあらためて知ってもらいたいという思いもある。
井上:シビックプライドって、もともとそこに住む人みんなが持っているもので、それをどこまで自覚して言葉にするかどうかに違いがあるだけだと思うんです。だからこそ、第三者的な目線を持った人が地域の魅力を拾い上げて、発信することが必要なのではないでしょうか。


そして、そこにある魅力に気づき、発信するということは、パルグループの手がけてきた事業と地続きにあるという。
井上:私たちパルグループの仕事は、もともとある魅力をキャッチーな形に編集して発信するということです。そういう意味では、KITOでやっていることは、下市町というブランドをプロデュースすることでもありますし、もっと言えばおしゃれと一緒。その人ならではの魅力を際立たせるために、「今ある服をこうやって合わせたらかわいいよね」だとか、「こうアレンジしたら素敵だよね」ということを考えるのと同じだと思っています。
パルグループならではのアプローチで下市町の魅力を伝えるKITO。オープンから1年あまりの間、順調に来場者数を伸ばしているが、井上さんは「この施設に来る人をもっと増やしたいという意識はありません」ときっぱり。
井上:来館者数が多くなりすぎると、一人ひとりのお客さまへ提供できる体験価値が低下しかねませんからね。もしそうなってしまうと、短期的には活気があるように見えても、中長期的な視野での活性化にはつながりません。私たちの目的は、KITOを有名にすることではなく、あくまで下市町ににぎわいを取り戻すことなんです。
本来の目的を忘れないからこそ、「パルグループに、もっと新しい施設をつくってほしい」という地域の声も、慎重に受け止めているそう。
井上:地方創生のために、地域の自立が必要です。そのためには、いろんな企業や人が活躍して、エリア全体で質の高い滞在体験を提供することが大切なんです。そして、その実現に向けた動きは、徐々に芽生え始めています。地元の林業会社が林業の拠点施設の整備に取り組んだり、福祉事業者が廃校を活用して農福祉連携のいちご農園を始めたり、また行政もKITOを軸にまち全体の回遊性を高める施策に乗り出したり。そのように、このまちを盛り上げようという新たな動きを生むきっかけになれたのが、何より嬉しいですね。
ビジネスのロジックを徹底してこそ、にぎわいを取り戻し、持続可能な地域にしていきたいという「思い」が遂げられる。コンセプト設計や商品開発の過程は、社会貢献に取り組もうとする企業にとってのヒントになりそうだ。
後篇では、こうした真摯な取り組みを可能にした、パルグループの組織風土や、プロジェクトの先に目指す企業像について伺った。
(取材:八木/文:阿部)
