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TOPTALK&INTERVIEW周遊人口と関係人口が急増した“ビックリマン”連携プレー

2024.09.13

周遊人口と関係人口が急増した“ビックリマン”連携プレー

ロッテ「ビックリマン」×滋賀 地方創生キャンペーンの裏側〈後篇〉
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今年4月から6月にかけて、地方創生ビックリマンプロジェクト*第3弾として実施された「滋賀県道の駅周遊キャンペーン」(詳細はこちら)。
前篇〉では滋賀県道の駅連絡会事務局を運営しキャンペーンの仕掛け人である大津市役所 杉本さん・前田さん、企画に携わった株式会社ロッテ 本原さんに聞いた「キャンペーン実施に至るまでの道のり」について伝えた。続いて〈後篇〉では実際にキャンペーンの現場に赴き、その様子をレポートしていく。
キャンペーン実施中の5月中旬、私たち編集部は、杉本さん・本原さんの案内で道の駅と、“国内で唯一ビックリマンチョコを製造している”ロッテ滋賀工場を巡った。そこで働く職員の皆さんのお話を伺い、キャンペーンに参加しているお客さんの様子を直接見ていく中で一番印象に残ったのは、キャンペーンに関わる様々な立場の人が、これを通じて、心に宿していた滋賀への思いを再起させている姿だった。

 

※地方創生ビックリマンプロジェクトとは:ビックリマンブランドを通してその土地の魅力を発信し、地方から日本を元気にするプロジェクト。第一弾は滋賀県東近江市にて、第二弾は鳥取県境港市にて実施され、ともに大きな反響を呼び、全国の自治体関係者から注目を浴びている。

肌で直接感じた、キャンペーンの反響と熱気

琵琶湖や鈴鹿山脈などの雄大な自然、近江牛や鮒ずしなどの名産品や信楽焼などの工芸品など多彩な魅了を抱える滋賀県。
近年では、近江商人の「三方よし」の精神が見直される話題の地域だ。その湖西地域、琵琶湖大橋のほとりにある道の駅「びわ湖大橋米プラザ」に伺い、観光案内所を担当している吉田さんにお話を聞いた。

観光案内所担当の吉田さん

案内所で毎日お客さまと向き合っているからこそ、肌で感じることができる「キャンペーンへのリアルな反響」。それはどのようなものだったのだろうか。

吉田:ゴールデンウイークも相まって、普段より賑やかになった印象で、ファミリー層の方を中心に想像以上に大勢のお客さまにお越しいただいています。観光案内所でビックリマンシールを配布しているのですが、実際に初日だけで300枚弱、多い日には350枚以上も配布しましたね。
「シールを集めるためには、どうやって滋賀を周遊したらいいですか」というお問い合わせも多くいただきました。県外からのお問い合わせもたくさんあって、キャンペーンへの注目度の大きさを感じています。

ちょうど取材中にも、「シールの引き換えにきました!」とキャンペーン参加者が訪れていた。吉田さんからシールを手渡され、とてもうれしそうな表情をされていた。

吉田:今いらしたお客さまは、県外からいらっしゃったそうです。でも意外と地元の人たちも周遊しているんですよ。

そう話す吉田さん自身も、周遊キャンペーンに参加したという。

吉田:他の道の駅の視察も兼ねて友人と周遊してきました。回ってみると、もうシールがなくなっている道の駅もあったりして、お客さんとしてショックでしたね。あ~もう一か所回らないといけないなあと(笑)。売り場を見てみると、例えば普段は在庫がある近江牛の商品なども品切れ状態で、キャンペーンの効果でいつもより盛況な印象を受けました。

実は滋賀県は南北にかなり距離があるため移動に時間がかかり、地元の人でも県内をぐるっと回る機会が少ないらしい。それでもシールを集めるために回りたくなってしまうこのキャンペーンは、企画の意図通り、周遊してもらうために「エリアを分ける」仕掛けがうまく作用していることがうかがえる。

「滋賀への思い」がスタッフの主体性を引き出した

編集部が次に向かったのは、“小野妹子の故郷”大津市の和邇にある道の駅「妹子の郷(いもこのさと)」。副駅長の山口さんにお話を聞いた。

道の駅「妹子の郷」副駅長 山口さん

山口:普段の客層よりも若い世代や家族連れが増えました。子どもたちがシールに喜んでいる様子を見るとこちらもうれしかったですね。あと、「シールの在庫、まだありますか?」という電話がかかってきたり、キャンペーンの仕組みや周遊の仕方などをご説明したりと、お客さんとの交流の機会も増えました。「こうやって回ると滋賀一周できちゃうんですよ~」「シールもこういう絵柄になっているんです」とお伝えすると、「じゃあ行ってみます!」とか「回ってみよう!」とお返事いただけたりして、とてもうれしかったですね。キャンペーンのことを知らずに道の駅に来た方が興味をもってくださることも多かったです。

会話が増える、というのはまさに大津市役所の杉本さん・前田さんが意図したことだ。だが現場スタッフの立場で考えると、いつもよりお客さま対応の負荷も増えて大変なのでは?とも思う。スタッフのみなさんはどう感じていたのだろうか?

山口:もちろんスタッフ業務も多少増えましたが、もともとお客さんをサポートするのが好きなスタッフばかりなので、多くのお客さんに喜んでもらえたことがモチベーションになったようです。むしろスタッフの方から「キャンペーン目当ての方でもお買い物しやすいように(2000円の買い物でシールが1枚もらえるので)ちょうど2,000円になるようなお土産セットを用意してみたらどうか?」というアイデアや、自分たちでキャンペーンオリジナルのPOPを作ってみるという工夫が次々と生まれてきました。

山口:私も副駅長として、スタッフみんなが、滋賀県を知ってもらうきっかけづくりに主体的に加わっていることがとてもうれしいです。何より、このキャンペーンで明らかになった“あの有名なビックリマンをつくっているのは滋賀工場だけ”という事実が、スタッフのやる気を後押ししたんだと思います。私自身、その事実を第1弾のキャンペーンで知りました。滋賀で作られているものがこんなにも全国でも人気なんだと思うと、ちょっと誇らしいんですよね。私はまだシールを1枚しか集められていないので、時間を見つけて回ってみたいと思っています!

大津市役所の二人の「滋賀への思い」から始まった取り組みが、多くのお客さまを惹きつけ、それが現場で働く人たちのモチベーションを上げ、新たな創意工夫を生み出している…その「思いとアクションの連鎖」が地域の誇りにつながっていくことを実感した取材となった。

自分たちの作る商品の反響が「目に見えた」ことのうれしさ

続いて編集部は、このキャンペーンの“もう一つの現場”「ロッテ滋賀工場」へ向かった。ここが先ほどから話にも上っている「日本で唯一ビックリマンをつくっている工場」だ。
湖東地区、近江八幡市の中山道、東海道新幹線の幹線沿いにあるロッテ滋賀工場にうかがい、ビックリマンの製造を担当している4人に話を聞いた。

株式会社ロッテ 滋賀工場
(写真左から)管理部生産管理課 山岸寛征さん/技術部生産技術二課 一係 中村健一郎さん/
生産部生産二課 主任 八木未幸さん/管理部 部長 梅元精一さん

口火を切って話してくれたのは生産部の八木さんだ。八木さんは「食育の講師」として、普段から小学校での出張授業も担当されるなど地域や市民との接点づくりを行っている。

八木:先日、自宅の車を整備に出した時、整備工場の担当の方が「八木さんロッテにお勤めですよね!今回のキャンペーン、楽しみにしているんです」と向こうから話しかけてくれたんです。その方に「実はビックリマンって、滋賀工場でしかつくってないんですよ」と教えたら、とても驚かれていました。実は、“滋賀工場がビックリマンを製造している唯一の工場”ということは、社内でさえもあまり知られていないんですよ。だからキャンペーンをきっかけに広めることができてうれしいです。工場のメンバーも話題にしていますし、工場全体が、活気づいた気がします。

八木さん

中村:ビックリマンは本当にファンが多いんですよね。私は職種柄、取引先の方とよく話すんですが、先方もビックリマンのファンの方が多くて、いつも商談がすごく盛り上がるんです。盛り上がりすぎて、なかなか本題にたどり着かないくらい(笑)。その度に、「ビックリマンって愛されているんだなあ」「そんな愛される商品をつくっているのが、自分たちの工場なんだなあ」と自分の仕事が誇らしくなりますね。

中村さん

山岸:僕はロッテに就職するまでビックリマンの存在も、それがロッテの商品だということも知らなくて……でもこの前、キャンペーンの反響が気になって視察に行ったら道の駅には若い人が列を作ってるし、県外ナンバーの車もたくさん来てるし、とにかくすごい人気で。これ、私たちがつくった商品のことが大好きで来てるんだよなあと思うと、とても刺激をもらいましたし、やる気が湧きました。そんな商品をつくっている工場で働くことを誇りに感じましたね。
ちなみに余談ですが、僕はシール4枚ともコンプリートしましたよ!(笑)
自分の子どもはもちろん、これからも世代を超えて愛される商品であり続けてほしいと思いました。

ご自身で額装したシールを披露してくれた山岸さん 

中村:キャンペーンを機に、ロッテの扱う商品や滋賀工場について様々な方から問い合わせをいただくようになりました。自分の働いている会社が、地元や多くの人に愛されているなと感じた瞬間でしたね。私は長年ビックリマンを担当していますが、改めてこれだけの期待があることを知って、お客さまにしっかり届けたいという気持ちが一層強くなりました。

中村さんはお父さんもロッテの社員。中村さんが幼稚園に通っていた頃の連絡帳には「大きくなったらロッテで働きたい」と書かれていたそうだ。会社を愛する気持ちがあるからこそ、今回の地元での反響は一層感慨深いものだっただろう。

八木:私は生まれてからずっと滋賀に住んでいて、ここで子育てもしています。入社後は家族もロッテや商品のことを気にかけてくれるようになって、今回も遠方に住む姉から「滋賀でやるんだってねー」と連絡をもらったんですよ。
また、私が担当している小学校への出張授業でも先生から「キャンペーンやるんですね!」とお声がけいただいたり、自分が働く工場の話題がこうやって広がっていくのはうれしかったですね。

講師をする際につける「コアラのマーチ」の耳のカチューシャを披露してくれた

関わる人すべての喜びにつながる「全方よし」のキャンペーン

今回のキャンペーンでは、ロッテ滋賀工場で働く方々もイチ参加者として地元を周遊し、新たな滋賀の魅力を発見したという。

山岸:妻と周遊しました。私自身は兵庫の出身でして、妻は広島出身で1年前に引っ越してきたばかりなんです。なので滋賀をそこまで知らなかったのですが、周遊する中で竜王地域のイチゴであったり、東近江のあいとうメロンだったり、これまで知らなかった産品に触れることができました。また子供と一緒に農業体験などできる場所もあり、子育てがしやすい、いい土地だなあと感じました。

中村:これ、滋賀県あるあるなのですが、免許を取ったらまずは琵琶湖一周するんですよね(笑)。私もそれ以来だと思うんですが、今回あらためて周遊してみて風光明媚な地域がたくさんあるなと滋賀の魅力を実感しました。

最後に、今回のような「地域に根差した活動」を取り組む意義について梅元さんに聞いた。
滋賀工場では、かつて工場を地域の皆さんに開放し、お菓子の配布やステージでの催し物などのお祭りを開いていたそうだ。コロナを機に途絶えてしまったが、地元に貢献したいという思いは変わっていない。

梅元:工場を構える一企業として、自治体とのつながりはもちろんですし、滋賀工場の社員の8割以上は滋賀出身なのでリクルート面では地域住民の方々とのつながりもとても大切にしています。でもそういった関係以前に、私たちは工場をこの滋賀の地で“稼働させてもらっている”という意識が強くあります。それを何かしらの形で還元していきたいという気持ちは、会社として常に持っています。

梅元さん

梅元:それと、これは個人的な思いなんですが……私自身が滋賀出身じゃない、いわば「よそから来た身」だからこそ感じることができる「滋賀のよさ」ってたくさんあるんです。でもそれが全然知られていないんですよ。それが本当にもったいなくて。ロッテは全国にパイプをもつ企業だからこそ、この滋賀工場を起点に“滋賀の良さ”を広く発信していけるし、していきたいと思って私は働いています。

これまで〈前篇〉・〈後篇〉にわたって、ロッテ「ビックリマン」×滋賀地方創生キャンペーンについてレポートしてきたが、そこにはたくさんの人物との出会いがあった。
自治体職員の枠を超えた大津市役所の杉本さん・前田さんのチャレンジが、ビックリマンブランドの責任者である本原さんの心を動かし、道の駅で働くスタッフの主体性を引き出した。県内外からやって来た「ビックリマンファン」の存在がロッテ滋賀工場のみなさんを活気づけ、ここで働くことの誇りを高めた。多くの人の気持ちが連鎖的につながっていったからこそ、ここまで大きな反響を生むキャンペーンになった。
よく新しいチャレンジを行う際「様々な立場や役割の人を揃えて多様なチームをつくる」ということが手法として語られているが、揃えただけではチームは動かない。そのチームの軸となる思いがあり、その思いが連鎖的につながっていって初めてそのチャレンジは息が長くなり、一度のチャレンジで大きな変化を生み出すものとなる。今回、その軸となる思いが「滋賀へのシビックプライド」なのではないかと思った。ロッテの工場がある地域での地方創生事業は地域への還元だけでなく、その工場で働く社員のプライドやファンによる商品への誇りにもいい影響を与える。「三方よし」という考え方が生まれた近江の地で、地域住民、ロッテ、道の駅や自治体、それぞれの「喜び」につながる「全方よし」のキャンペーンがそこにはあった。

編集後記

「このプロジェクトは慈善事業ではない」という本原さんの言葉が、ずっと心に残っている。
そんな本原さんだからこそ、ボランティアや寄付活動ではない、企業として持続可能な社会貢献の形を、自治体と一緒につくりあげることができたのだと思う。
ただ一方で企業のビジネス視点だけでも、このプロジェクトは成功しなかったと思う。
起点となった杉本さん・前田さんの滋賀に対する強い思い。行政職員の職域の枠を超え、予算を自ら作りだす活動まで踏み出していったその熱量。滋賀での現地取材を通じて感じたお二人のシビックプライドとビジネス視点の両輪があったからこそ、ここまで広がったのだと思った。
そして個人的に今回の取材で最も印象的だったのは、滋賀工場の方々の笑顔だ。予定時間を超えてまで、キャンペーンの反響や工場のこと・滋賀のことについて熱心に語ってくださった笑顔は、自分たちの仕事に対する誇りであふれていた。
全国各地に支社や工場を持つ企業は多い。物理的な距離や組織的な距離がありつつも、自社に対する強い愛情と熱意を持っている社員がそこにはいる。その思いは、企業にとって大切な資産だ。そこにどうスポットライトをあてるか、その重要性を改めて感じた取材だった。

(取材:黒田/文:大瀧)

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