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TOPTALK&INTERVIEW「予算がない」であきらめない。自治体職員がビジネス視点で挑む地方創生キャンペーン

2024.09.06

「予算がない」であきらめない。自治体職員がビジネス視点で挑む地方創生キャンペーン

ロッテ「ビックリマン」×滋賀 地方創生キャンペーンの裏側〈前篇〉
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今年4月から6月にかけて、地方創生ビックリマンプロジェクト*第3弾として「滋賀県道の駅周遊キャンペーン」が実施され(詳細はこちら )、大きな反響を呼んだ。滋賀県内外で多数のメディアに取り上げられただけではない。キャンペーン開催に併せて実施されたクラウドファンディングでは、目標の3倍に迫る890万円もの支援が集まった。“人気のコンテンツを利用したキャンペーン”と言ってしまえばそうかもしれない。企業と自治体の協業もよく聞くことだ。でもなぜここまで注目を集めたのだろうか。
キャンペーン開始直前の4月に、企画を立案した滋賀県道の駅連絡会事務局を担う大津市役所の杉本さん、前田さん、「ビックリマンチョコ」のブランド責任者である株式会社ロッテの本原さんにお話を伺った。

大津市のお二人曰く、キャンペーンの企画当初は「予算があまりなかった」という。しかしお話を聞いていくと、そこにはビジネス視点でプロジェクト企画していくという企業側の信念と自治体職員の過去の経験にとらわれないチャレンジがあった。予算があまりないという大きな壁を打ち破り、いかにキャンペーンを実現したのか?その舞台裏に迫る。※文中敬称略

 

※地方創生ビックリマンプロジェクトとは:ビックリマンブランドを通してその土地の魅力を発信し、地方から日本を元気にするプロジェクト。第一弾は滋賀県東近江市にて、第二弾は鳥取県境港市にて実施され、ともに大きな反響を呼び、全国の自治体関係者から注目を浴びている。

    • 杉本裕介(すぎもと ゆうすけ)さん
      大津市 産業観光部商工労働政策課 主査
      大津市職員。観光振興や、Park-PFIなどの官民連携事業に携わったのち、令和5年度から商工労働政策課配属となる。同年に、大津市が担当する「滋賀県道の駅連絡会」の事務局として、道の駅創設30周年記念「ビックリマン地方創生プロジェクト 道の駅滋賀周遊キャンペーン」を立ち上げた。京都市出身。幼少期に滋賀県大津市に移住。以後20年以上を大津市で過ごし、2007年4月大津市役所に入庁。
    • 前田拓真(まえだ たくま)さん
      大津市 産業観光部商工労働政策課主任(当時)(現 財政課主任)
      大津市職員。高齢者のケースワーカーなど福祉分野に従事したのち、令和2年度から商工労働政策課に配属し、市内の中小企業支援を担当。東大阪市出身。大学入学を機に大津市へ転入。治安の良さや自然の環境など居心地がよく、平成27年度にそのまま大津市役所に就職。
    • 本原正明(ほんばら まさあき)さん
      株式会社ロッテ マーケティング本部 ブランド戦略部 焼き菓子企画課 課長
      開発部に所属(現・マーケティング本部)。現在は「ビックリマンブランド」を含めたキャラクター菓子だけに留まらず、ビスケット事業やチョコレート菓子(コアラのマーチ/トッポ/パイの実)等
      を率いるカテゴリーマネージャー(課長)として活動。課題であったビックリマンファンの裾野を拡大する為に「鬼滅の刃」や「ワンピース」「にじさんじ」等のコラボ商品を手掛けるだけでなく、アニメ「ビックリメン」やスマホアプリ「ビックリマン・ワンダーコレクション」等の企画にも関与。日本記念日協会に認定された「4月1日はビックリマンの日」記念日企画等の様々な斬新なアイデアでビックリマン再ブームの兆しをつくる。

〈キャンペーン概要〉(詳細はこちら
期間中、滋賀県内の道の駅での2,000円以上の買い物・飲食で、滋賀県の名産品や観光スポット等とコラボレーションしたビックリマンBIGシールが1枚プレゼントされる。シールの種類は4種類。県内を4つのエリアに分け、エリアごとにもらえるシールが異なるため、滋賀県内を周遊することで全種類集めることができる。4枚すべてを集めるとコンプリート賞として、滋賀県守山市出身の野性爆弾・くっきー!さんとコラボしたビックリマンBIGシールが抽選でもらえる。

「例年通り」ではなく「面白いこと」がしたい。自治体職員の挑戦

滋賀県には20の道の駅がある。その道の駅を統括・管理する「滋賀県道の駅連絡会」では、道の駅同士の連携や道の駅を通じた滋賀県の観光振興に寄与する活動を行っている。2022年~2023年度の周遊キャンペーンを担当したのが大津市の杉本さんと前田さんだった。

前田:周遊キャンペーンといっても、大体の場合は前年を踏襲してスタンプラリー(道の駅を回ってスタンプを集めるとギフト券や特産品などがもらえる)を実施することが多いんです。道の駅連絡会の仕事は、通常の公務に加えてプラスオンの業務になるのでその分負荷がかかります。我々も前例を踏襲してスタンプラリーにすることもできたのですが、道の駅の制度が始まって30周年というタイミングだったので「面白いことがやりたい」とずっと二人で話していました。

大津市 前田さん

杉本:そうですね。ここ数年、商工労働政策課の仕事は中小企業に対する新型コロナ給付金事業がメインでした。苦しんでいる中小企業の方々を目の前にして、落ち込んでしまった経済をもう一度、元気にさせたいという思いを強く持っていましたね。滋賀県全体をより盛り上げるようなキャンペーンづくりにチャレンジしたかったんです。

大津市 杉本さん

地域の特産品や地元産の食品やお土産を扱う道の駅の賑やかさが戻れば、地域経済の活性につながる。ただ、初めての試みということもあり、実施にあたっては苦労も絶えなかったという。それでもやろうと思えたのは、滋賀県や大津市に対する強い思いがあったからこそ。

前田:滋賀県は大阪・京都とも近く、特に大津市はベッドタウン的な色あいも強いので、住民のみなさんは大津市に対しての愛着や誇りをそこまで持っていらっしゃらない印象があります。でも、一度滋賀を出たことがある人は「滋賀って住みやすい」「大津っていいところだ」と口をそろえておっしゃるんです。住民の方に滋賀の魅力にもっと気づいてほしいという思いはありましたね。

杉本:今回「道の駅」だけに、“未知の”滋賀に出会ってもらう、というのを裏テーマに掲げています。周遊することで、滋賀にはたくさんのいいところがあることを改めて感じてもらいたい。キャンペーンで経済的に活気づくことはもちろんですが、県外からのキャンペーン参加者との交流を機に、市民の人が滋賀の良さに気づくきっかけになればと思っています。

「単にコンテンツを今まで通り活用するだけではダメ」ブランド責任者としての矜持

そんな思いを持った二人はすぐに企画書を作り、近江八幡市にあるロッテ滋賀工場に持ち込んだ。工場から話を聞いた本原さんは当初、乗り気ではなかった。

本原:ありがたいことに「地方創生ビックリマン」の成功を機にたくさんの自治体関係者の方からお話をいただくようになったのですが、ビックリマンの担当者は僕一人で、すべてに応えきれないのが実情なんです。実は今回も一度はお断りしました。

単にキャパシティの問題だけではない。歴史ある「ビックリマン」というブランド(コンテンツ)を育ててきたマーケターとして、ブランドファンに対する思いがそこにはあった。

本原:ビックリマンを活用した企画を実施する際、僕がブランド責任者として大切にしていることは、発売当初から受け継がれる「ビックリさせる/ドッキリさせる」「意外性がある」というブランドのコンセプトに合致しているか。このことは常に念頭に置いています。加えて「ファンの皆さんのためになるか」という点でも、企画判断時は慎重に検討しています。

株式会社ロッテ 本原さん

本原:ビックリマンは熱量の高いファンの方々に支えられて長い歴史を歩んできています。こういったキャンペーンを実施すると大勢のファンが参加してくださいますが、その思いを利用しちゃいけないと思っているんです。ファンの方々に、新たな気づきや喜びなど何かしらの形で還元できるか。「ビックリ」や「喜び」を届けられるか。そういった観点で企画を一緒に作り上げられるか判断しています。

ではどのようにしてその高いハードルを越え、実現にまで至ることができたのだろうか。

本原:最初は滋賀工場経由でお話をいただいたんですがお断りしたらお二人が直接会いにいらしたんですよ。「本社(東京)まで行きますんで!」って半ば押しかけに近い形で(笑)。

前田:一度は断られたのですが、今までにないキャンペーンにしたい、という思いが強かったので、ここで折れるわけにはいかない。企画の良し悪しを判断していただく前に、一回話をさせてほしいんです!といって乗り込みました(笑)。

本原:お二人と直接話す中で「面白いこと」をしたいという熱意が伝わってきました。一度実施したキャンペーンの横展開となると「予算は確保したので、あとはお任せします」というようなスタンスで相談されることも多いんです。それでは面白いことはできないので、予算に関係なく断ります。でも、この二人ならいい企画にできると思えましたね。だから僕も、もらった企画書に書いてあることにとどまらず、ビックリマンを使って、道の駅や滋賀全域を使って、どう面白くできるか考えましょうよ、と提案して企画が走り始めました。

予算がないなら、作ればいい。

両者の熱意が共鳴し、企画は本格始動。しかし、三人で企画を練り直していく中で立ちはだかったのが、予算の壁だった。

本原:「地方創生ビックリマン」というプロジェクトは、慈善事業ではなくビジネスとして取り組んでいます。コンテンツを貸し出す立場として、ある程度の費用は発生しますし。こういった事業こそ、お金にすること・ビジネスにしていくことが大事だと思うんですよね。地域の経済に貢献することが、地方創生になると僕は思っているので。ビジネス視点でいうと、「顧客満足」は最終的に「収益」という形で返ってくるのだと思います。今回のプロジェクトでいうと、参加者の方が楽しむことによって滋賀県や道の駅に収益となっていく、ということが重要です。

前田:道の駅連絡会での平時の予算は、各道の駅からの1万円ずつの負担金。補助金等を併せてもせいぜい70万円程度。本原さんのお話を聞きながら、金額足し上げていくと「あー、もう全然足らへん」と。これでは到底ビックリマンとは組めそうにない。でも、せっかくロッテさんが力を貸してくれるところまでこぎつけたので、絶対に実現させたかったんです。それならもうお金を集めるしかないなと。

本原:どうやったらお金を生み出してみんなが楽しめる形になるか?どうやってお金が循環するスキームを設計するか?を一緒に議論しました。新規事業を興すような感覚で、僕自身も楽しかったです。

その時出たアイデアの一つがクラウドファンディング。前田さんと杉本さんはすぐに行動に移し、ファンディングへのリターンメニューの開発や募集の手続きを始めた。返礼品には、シールアルバムセットや滋賀名物品にビックリマンのキャラクターをあしらったグッズなどファン垂涎のグッズがならび、キャンペーン開始前にもかかわらず目標金額に迫る支援が集まった。
しかし、二人の行動はそれだけにとどまらない。

杉本:クラウドファンディングだけでは目標の予算に足りない可能性があったので、キャンペーンへの協賛社を募りました。ロッテさんのご協力もあって、単にキャンペーンポスターに社名を掲載するだけではなく、ビックリマンシールの裏面にも社名を掲載できるメニューもつくったんです。ビックリマンシールに自社の名前を入れられること自体めったにチャンスのないことで、協賛社さんは非常に喜ばれました。

配布されたシールの裏面。特別協賛企業の名前が掲載されている。

杉本:こういった協賛メニューの企画から、実際に企業の方々へ協賛を募るための営業活動まで自分たちでやりました。

本原:自治体職員がお金を集めるために営業活動するって、なかなか想像できないですよね(笑)。

前田:クラウドファンディングという手法は自治体にもちょっとずつ浸透してきていますけど、こちらから営業活動を仕掛けていくっていうのは、大津市でも初めてだったんじゃないですかね。

二人の地道な営業活動は、結果として地域を盛り上げたいという多くの企業のシビックプライドに触れるきっかけとなった。

杉本:たくさんの企業に「一緒にこの事業や、滋賀を盛り上げませんか?」とお声がけする中で、様々な方の「滋賀を盛り上げたい」という思いに触れました。滋賀を代表する多くの企業から協賛をいただけることももちろんうれしかったのですが、この企画を成功させないといけない、という気持ちが一層高まる大事な機会でした。

「ビジネス化する力」と「即行動にうつす力」の連携プレー

予算の壁を打ち破ったことで、過去の慣例にとらわれることなく企画の自由度が増していき、より「面白い」企画の実現に至った。企画実現のカギは一体何だったのか?三人それぞれに聞いてみた。

本原:お二人の「行動力」だと思いますね。たとえば「キャンペーンのリリース時に記者会見をセッティングできると、話題性を作れるんじゃないかな」とアイデアを伝えると、お二人は「すぐ調整します!」と。そのスピード感に驚いて「記者会見のセッティング、やったことあるんですか?」と聞くと、「ないです!」と(笑)。前例がないからといって歩みを止めないんですよ。そんな勢いで、いろいろな問いかけに、すぐに行動に移していく。この行動力が、キャンペーンの盛り上がりを生み出せている理由だと思います。

一方、杉本さんは「本原さんの視点は、行政職員として学びが多かった」と語る。

杉本:行政職員は、みなさんから納めていただいた税金が予算になりますので「公共の福祉」や公正公平という観点で日々公務にあたっています。そういう意味では、自由な発想で物事を考えることや、ゼロから何かを生み出していくことは、行政職員の苦手とするところなのかもしれません。今回、本原さんとの協働は我々としてもとても勉強になったし、実施にこぎつけたことは自信にもなりました。課題が複雑になる時代において、目的のためにどういった手立てが考えられるのかを柔軟な発想で考えていくことは、普段の公務においても意識していかないといけないと思います。

前田:今回、資金繰りから企画運営まですべて二人でやり切ったという経験は大きかったです。過去の経験にとらわれがちですが、民間企業の方と組むことで、ビジネス視点や新たな発想で仕掛けることができました。協賛の集め方など含め、多くの自治体の参考になるスキームを作れました。これは大津市だけで抱えておくことではないと思っています。キャンペーンを最後まで完遂させることが必要ですが、次の幹事にも引き継いでいくことはもちろん、この事例を参考に、各地で企業と自治体の結びつきが増えいってほしいと思っています。

漫然とコンテンツに頼るのではなく、地域を盛り上げたいという信念に基づいた、前田さんと杉本さんの真摯な努力。行政職員としてここまでできるんだ、という自信が表情から溢れていた。それに加え、ビジネスとしての視点でキャンペーンの設計をした本原さんの妥協のない姿勢。この両社の想いが融合し、県内外から注目を集めるキャンペーンにつながった。

さて、「面白いことをしたい」「滋賀の魅力を届けたい」という両社の思いは、果たして市民に届いているのだろうか。この後私たち編集部は、実際に大津市役所さんとロッテさんとともにキャンペーン実施中の滋賀を巡り、道の駅やロッテ滋賀工場でお話を伺うことになった。そして、このキャンペーンが様々なプレーヤーの主体性を引き出し、滋賀への思いを再起させるきっかけとなったことを知る。後編では、その様子をレポートする。

(取材:黒田/文:大瀧)

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