\山出さんからメッセージ/
この3月で、僕の別府での活動は一区切りとなります。
地域とアートの関係は、まだまだ可能性の途中にあります。次の世代が、さらに自由な発想で挑戦を重ね、新しい別府の姿を描いていくことでしょう。彼女たちの新たな挑戦を、これからも共に面白がっていただけましたら幸いです。
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■概要:まちの魅力をアートを通じて共有する「BEPPU PROJECT」
海外でも活躍するアーティストだった山出淳也(やまいで・じゅんや)さんは、2005年にNPO法人BEPPU PROJECTを立ち上げ、別府のまちを舞台とするアートイベントの企画を始めた。当時の別府は大型温泉地として中高年の男性団体客による宴会需要が中心。全国的に増加傾向にあった女性の個人旅行層を十分に取り込めていなかった。さらに、中心市街地も鮮度と集客力が弱まりつつあり、活性化が大きな課題となっていた。
そこで山出さんは「アートによる地域活性化」を掲げ、その具現化として「別府現代芸術フェスティバル 混浴温泉世界(以下、混浴温泉世界)」を開催。温泉だけではない別府の魅力を、アートを通じて体験してもらうことを目指した。
2009年に開催された第1回「混浴温泉世界」では、世界各国からアーティストを招聘し、多くの市民やボランティアの人々とともに、別府市全域を舞台に現代アート、ダンス、音楽を融合したプログラムを展開。約2カ月間の会期に、約9万人が来場した。
■背景・経緯:ゼロからつくったイベントを地域に定着させる難しさ
「第1回を実現させることで精一杯で、それ以降のことを考える余裕はなかった」と山出さん。だが、開催中に「これからも継続してほしい」という声が多く寄せられ、3年ごとに全3回で実施することを決めた。周囲からの期待も高く、国際芸術祭を担う組織を3倍以上の規模に拡大。新しい取り組みも重ね、「アートによる地域活性化」への手応えを感じながら準備を進めた。
しかし、第2回が近づくと状況は一変。第1回の時に手弁当で支えてくれた“地域の人々”が、イベント運営側からいなくなった。アートイベントを運営するプロ集団を目指すなかで地域の人が関われる余地が失われ、これまで伴走してくれた地域コミュニティとの間にも温度差が生じ、山出さんたちは次第に孤立していった。
さらに、資金調達も思うように進まず、第2回の終了後には大きな赤字を抱えることとなった。
それでも山出さんはアートの力を信じ、「どうにか続けたい」という強い思いで、この困難を乗り越えていった。

急激なスケールアップによって地域の協力を失った過去を振り返り、山出さん(写真右)は「小さく育てて、時間をかけて大きくしていくつもりだった」と語る。

2022年に混浴温泉世界実行委員会主催で開催された塩田千春展『巡る記憶』の様子。
撮影:サニー・マン
©混浴温泉世界実行委員会
■実績:単発のアートイベントが、別府の新しい観光・文化資産に
2回目を終えて、山出さんは、「もともと自分はなにをやりたかったのか」を改めて考え、大規模なイベントよりも「場を作ること」、多様な人たちがそれぞれの関わり方を持つエコロジー=生態系として、「混浴温泉世界」を再構築することが重要だと認識。
そこで3回目の「混浴温泉世界」は、原点に戻ろうと案内人がガイドしながら市内各所のアート作品を鑑賞するツアー形式で開催した。
市民案内人によるツアー形式こそ、他の芸術祭と「混浴温泉世界」の根本的な違いである<市民が主体であること><このまちを一番知っている芸術祭であること>をもっとも体感できる形だと考え、アートの価値を伝えるだけではなくまずは別府のファンになってもらうことを重視した。
「一気に100人が来てくれるより、1人が100回来てくれる価値を大切にする芸術祭の実現を目指した」という山出さんの言葉通り、結果として、別府のアートシーンは温泉に次ぐ新しい観光・文化資源として地域に定着。アーティストの新たな挑戦の場として、また市民が誇り(シビックプライド)を持つきっかけとしての機能を果たすイベントにまで成長。これを契機に、大分市や国東半島など、大分県全体へアートアクションを拡げていくことができた。
■展望:アートイベントづくりから、今後は「文化創造都市」づくりへ
今後は、アートイベントは後進に任せ、新しい都市づくりへの展望を描く山出さん。テーマは「移住」。これまでのように、「移住者の数」を追いかけるのではなく「創造的人財」をどう集めるかにフォーカスした活動を推進中だ。
一見、アートとは異なる活動かと思いきや、そこにも、アートの根源的な役割が活かされている。山出さんの言葉を借りると「アーティストとは常識を疑う人」。だからこそ、狭い世界でのしがらみを打ち壊し、地域をかき回し、常識を覆し、結果としてイノベーション人財が集まる環境をつくる刺激剤になれる。「万人向けではなくてもいい、無茶をし続ける土壌をつくることが、将来的に新しい開発や投資を呼び込むことにもつながると思います」とさらに大きなスケールでのまちづくりを構想している山出さんの今後のチャレンジにも注目したい。

展望を語る山出さん
取材者コメント(YOMIKOインダストリーコンサルティングセンター 日浦康雄)
アートのまち・別府を通じて見える地方創生成功の方程式
コア価値へのこだわり×特色ある地域文化=地方創生エコシステム
今回、取材に協力してくださった発起人の山出さんのお話を伺う中で、上記のような地方創生を続けていくための方程式が浮かびました。それをひとつひとつ、紐解いてみたいと思います。
1)コア価値へのこだわり:唯一無二のアート性
山出さんの活動で印象的だったのは、単に有名なアート作品で集客しようという、既成作品をいわば“消費”しかねないような発想ではなく、“新たに生み出す”姿勢を大事にしていること。
「この場所でしか作れない作品」を依頼し、会期中に新作を生み出すプロセスを重視するこの仕組みを10年以上続けてきたことで、「別府なら自由に創作できる」という認識が既にアーティスト間で広まっています。
「既存価値を消費するのではなく、ここで新しく生み出す」――これはアートに限らず、様々な地方創生事業にとって重要なポイントだと感じました。
2)特色ある地域文化:インクルーシブ都市・別府
別府にはもともと多様な人を前向きに受け入れる風土がありました。
港町としての歴史や、歴史的に沢山の病院があり様々な患者さんが集っていた経験などを背景に、別府には“排除”ではなく“包容”を基本とする気質が備わっているように感じます。また、温泉が生む“混浴”文化も、国籍や年齢、障がいの有無などの境界を超えて人々が交わりやすい環境を作っています。
芸術祭でも、地域の人々と外部からの来訪者が自然に交流できる場を作り出すことで、インクルーシブな地域文化を十分に活かしていた点が印象的でした。
3)地方創生エコシステム:シビックプライド活性化
「唯一無二のアート性」と「インクルーシブな都市文化」が交わったことで、地方創生のエコシステム(仕組み)が形成され、自発的・加速度的にアート都市・別府に成長したのが、この事例。エコシステムの構造を分解すると、下記のような形になるのではと思いました。
・山出さんを中心に唯一無二のアート創作/アートイベントが開催される
・その唯一無二の価値に一部の人が惹きつけられる
・その様子をみて、インクルーシブな都市気質もあって、徐々にアートがまちに受け入れられる
・受け入れた市民が主体的に別府/大分のアートアクションに参加し、(ボランティア/場所の提供/職務を通じた応援など)シビックプライドの芽が育ち始める
・結果的に、さらに“このまちならではの唯一無二性”が高まったアート価値が創造される
・このサイクルが山出さんや一部のプロジェクトリーダーの手を離れて自走しはじめる
山出さんの言葉、「やりたかったのは、我々だけで完結せず、いろんな人が協働していくやり方を作ること。多様な入口をみんなでつくれば、市民の方が関わる「場」も広がる。特に若い世代の人たちに『自分たちが作っていくんだ』というDIYな感性を持ってもらう機会になっていたと感じています」からも、自走する仕組みをつくろうという意図がうかがえます。
このDIYな感性こそ、シビックプライドを「概念から、実現へ」と進化させるための必要不可欠な要素であると、改めて実感しました。
