\シモキタ園藝部 設立時共同代表理事(現理事)/
シモキタ園藝部は設立から5年目を迎え、これからも「楽しむこと」を大切に活動を続けていきます。いっしょに緑にふれ合い、見守っていく仲間を広く募集しており、ホームページには“新入部員”向けのスライドも掲載しています。ご関心のある方は、ぜひのぞいてみてください!
▶シモキタ園藝部:https://shimokita-engei.jp/
■概要:植物の循環と共存するシモキタを目指して
多様な個性が生きるまちとして知られる、東京都世田谷区下北沢。一般社団法人シモキタ園藝部には、その地元住民を中心に約300人が所属している。主な取り組みは、小田急線の東北沢駅から下北沢駅、世田谷代田駅にかけての全長約1.7キロの範囲に整備された、「下北線路街」の緑を管理。2022年に全面開業となった線路街において、世田谷区から小田急電鉄を介して発注される植栽管理を中心に、緑を手入れするワークショップの開催や、コンポストによる堆肥づくり、さらには飲食事業、養蜂事業など幅広い活動を主体的に展開している。「緑の循環に寄り添う」という考えのもとで、癒しの景観づくりと、部員それぞれの「やってみたいこと」が活かされるコミュニティ活動に取り組んでいる。

園藝部が植栽を管理する「のはら広場」

「ちゃや」と名付けられたカフェでは、のはら広場などで育った植物を使い、季節ごとのメニューを提供している
■背景・経緯:3駅の地下化から始まった、緑のまちづくり
下北線路街は、小田急線の線路の地下化に伴う跡地開発によって生まれた場所。線路街が通るエリアにはもともと小規模な商店や住宅が並び、昔ながらの路地的な雰囲気や、地に足の着いた生活感を色濃く宿していた。その個性が、まちに集積するサブカルチャーと溶け合い形づくられていたのが、「シモキタ」らしさであり、開発の方針を巡っては、事業主体の小田急電鉄と、都市計画を担う世田谷区、地元住民との間で、20年ほど前から活発な議論が交わされてきた。こうした中で、小田急電鉄はまちづくりへの市民参画を重視する「支援型開発」を掲げ、その一環として植栽管理を地域住民に委託する仕組みを導入。かねてから緑のまちづくりを提案してきた市民らがシモキタ園藝部を立ち上げ、植栽管理を担いながら活動の幅とコミュニティを広げてきた。

小田急電鉄の支援型開発の考えのもと、植栽管理が園藝部に委託されている
■実績:フラット・オープンな組織づくりで人々を巻き込む「ワーカーズコープ」の思想
組織運営の方法は、「ワーカーズコープ(労働者協同組合)」の考え方がベース。これは、働く人たちが共同で出資し、経営し、事業を決めるという組合組織であり、出資者が等しく運営への参画権を持つことが特徴だ。シモキタ園藝部では、この運営方法を取り入れることで、自由度の高い植栽管理をはじめ、一人ひとりの多様な興味関心が反映された幅広い活動を可能にしている。平等で間口の広い組織のあり方は、多くの人の加入を促し、発足当初は20人ほどだった部員数は、6年間で10倍以上に増加した。また、植栽管理の受託費で収入基盤を確保し、作業を担う部員らに一定の報酬を支払うなど、ボランタリーと仕事としてのやりがいを両立している。こうした仕組みは、2023年に公益財団法人都市緑化機構による「第43回 緑の都市賞」で内閣総理大臣賞を受賞するなど、外部からも高く評価されている。
■展望:「やってみたいこと」を尊重し、人々が緩やかにつながる場を維持する
下北線路街の開発には当初、コミュニティやまちの個性が失われてしまうのではないかという住民の不安もあった。しかし、市民参画の余白を大きく残した小田急電鉄の開発方針のもと、部員それぞれの興味関心を活かす園藝部の活動が行われたことで、多様な価値観が共生する「シモキタ」を象徴的する場所が生まれた。身近なまちの緑と日常的に接し、自分の興味関心を形にしていく。緑のもとに集まった人同士が、お互いの「やってみたいこと」を尊重しながら緩やかにつながる。このように自然と多様性が実現される環境を、部員が増加していく中で、いかに維持していくのかが今後の課題だという。ワーカーズコープ的な組織体制を土台とした、一人ひとりの意見を大切にする姿勢を守りながらも、組織運営においては属人的になりすぎず、適切にシステム化する。それによって、個人の「やってみたいこと」を実践できる場を提供し続けていく。

剪定などの活動は、部員でなくとも気軽に参加する機会が開かれている
取材者コメント(編集部 西村)
「市民が主役」を支える、理にかなった制度設計
東北沢駅から下北沢駅、世田谷代田駅にかけて、かつて線路だった全長1.7キロの跡地を活用して整備された「下北線路街」。新鮮なムードをまとったその街路のエリアの一角に、シモキタ園藝部が手がける「シモキタのはら広場」が広がります。
のはら広場には、さまざまな草木が茂り、生きた緑の匂いが感じられます。その雰囲気は整然とした“庭園”ではなく、“都会の原っぱ”という言葉がぴったりの風景でした。
「自分で手をかけると、自分の庭だと思える」「管理している姿を日ごろから目にするので、管理する人の顔が見える」。話をうかがった部員の皆さんの言葉は、のはら広場で植栽管理に当たっている人たちの姿を見ると、実感をもって理解できました。
住民が緑を管理する、と聞くと善意に基づくボランティアの活動を思い浮かべがちです。私もそのようなイメージを持って取材に臨んだのですが、園藝部の場合は単なるボランティアとは違いました。もちろん、根底には「まちのために」という善意があります。しかし、それだけに頼ることなく、安定した組織運営を支える収益とともに、仕事としてのやりがいを得られる仕組みが整備されていました。また、人を集め(イベントやワークショップ)、植栽管理を担う人材を育てる機会(園藝學校)がきちんと設けられ、その人たちが決められた枠組み以外で「遊ぶ」ことができる柔軟さすらも、組織としての制度設計のもとで実現されています。
善意と経済性、柔軟さと制度は対比的にとらえられがちですが、両者のバランスをとってこそ、持続化可能な活動ができるのだと感じました。そして、園藝部がそれを形にできたのは、行政や事業者との対話を重ねた上での連携体制があったからです。真に「市民主体」のシビックプライド醸成は、決して一朝一夕では成し得ない。しかし、手間をかけてでも実現を目指す価値があるのだと、部員の皆さんの明るい表情から、知ることができました。
