\株式会社ドッツアンドラインズ代表取締役 齋藤和也さんからメッセージ/
ある技術に特化した工場が、「これしかできない」とマイナスに捉えるのではなく、「私たちにしかできない」と胸を張り、技術で世界と渡り合うくらいの自信をもってほしい。そんな思いのもとで、取り組みを続けています。地域の産業課題に向き合う方々、そしてこれからの時代を担う若者たちには、常識を疑いながら、夢に向かって挑戦してほしいと願っています。ぜひ燕三条を訪れ、地域が育んできた魅力と、私たちの夢にふれてみてください!
▶燕三条こうばの窓口:https://factory-window.jp/
■概要:燕三条に点在する工場の技術を、地域外市場のニーズとマッチングする総合窓口
JR上越新幹線・燕三条駅の改札外フロアに位置する「燕三条こうばの窓口」は、金属加工のまちとして知られる燕三条エリアのものづくりに関する総合窓口。運営は、地元のものづくり企業の若手経営者10人によって設立された株式会社ドッツアンドラインズが担う。全国のメーカーが抱える商品開発・製造における技術ニーズに対して、溶接や研磨、プレス、塗装など、適した技術をもつ地元企業をマッチング。さらには、それらの異なる得意分野を有する企業でチームを組むことで、商品開発のコンサルティングやプロジェクトマネジメントなど、より「上流」側の仕事にも対応する。地域全体のビジネス機会の拡大に貢献するとともに、地元住民が地域産業の価値を再認識するきっかけとなっている。

施設内のコンベアには各社のサンプル品が流れ、精巧な加工などを目の前で確かめることができる。

窓口にはスタッフが常駐。詳しい企業情報を尋ねたり、ビジネスマッチングサービスを受けることができる。
■背景・経緯:400年の歴史を誇る地域産業が失われてしまう危機感
燕三条の金属加工は、江戸時代の和釘づくりを起点に約400年の歴史を誇り、現在も多数の工場が存在している。各社は長い間、細かな分業によって特定の高度な技術を磨いてきたが、重層的な下請け構造の下、近年は収益性の低さや受注の不安定さが課題となっていた。営業機能をもたない企業も多く、さらには低賃金や製造業を取り巻く「3K」のイメージを背景に、人手不足や後継者不足が深刻化。こうした状況に対し、自身も地元金属加工会社の後継者である齋藤和也さんは「たとえ現在は堅調な会社であっても、エリア全体でビジネス機会を獲得し産業を残さなければ、将来は仕事ができなくなる」と考え、2020年にドッツアンドラインズを設立。JR東日本グループが主催する新潟県内の無人駅活用プロジェクトをきっかけに、ものづくり情報の発信と交流の拠点を整備し、2023年にこうばの窓口をスタートさせた。

齋藤さんは駅に施設を設けた理由として「商談で燕三条を訪れながらも成立に至らなかったビジネスパーソンに対し、エリア内の企業情報を広く伝えることで、ビジネス機会の取りこぼしを防げると考えた」と語る。
■実績:2年間で100件の商品開発を仲介し、長期的な技術価値向上を目指す
こうばの窓口を通じて情報発信を行う地元企業は、2025年4月時点で124社にのぼり、この場所におけるマッチングによって生まれた商品は100を突破。売上が前年比1.5倍に伸びた企業もあるほか、JR東日本グループのネットワークを活用した販路開拓や、国際的な博覧会、各地の催事への出展など、さまざまな波及効果が生まれている。一方、ドッツアンドラインズは、会員企業からは「広告」と位置付ける窓口内での情報掲示費用のみを運営資本とし、マッチングが成立しても手数料などは徴収していない。これは、各社が得た利益を人材や設備への投資に充てられるようにするためで、与信管理やプロジェクトマネジメントなど、マッチング以外の支援を行う場合にのみ追加料金を設定している。こうした短期的な成果を追わない同社の姿勢が、地元企業や各工場にも長期的な視点で技術価値向上に取り組む動きを促しているという。

窓口の一画には、企業情報が記されたカードがずらりと並ぶ。
カードを設置する企業数は100を超え、訪れた人は誰でも興味があるものを持ち帰ることができる。
■展望: 燕三条ブランドを磨き、薄利多売から高付加価値へ
ドッツアンドラインズでは、会員企業の成長を優先することが、長期的には自社を含むエリア全体の利益につながるという「未来投資」を意識しながら、足元の事業基盤の強化に力を入れている。AIを活用したマッチング精度向上や、プロジェクトマネジメントのシステム化など、効率的かつ再現性の高い事業運用に注力。また、燕三条ブランドの向上のため、一般消費者向けの商品開発の推進や、オープンファクトリー(工場見学)のパッケージ化、さらには若者との接点拡大を意図した野外音楽フェスの開催など、複合的な活動を広げていく方針だ。こうした取り組みを通じて、「100円のものを1万人に売る」薄利多売型のモデルから、「1万円の価値を100人に届ける」高付加価値型のモデルへと地域全体で転換し、基幹産業の再興、そして世界に誇る燕三条ブランドの確立を目指す。

将来の担い手確保に向け、地域の子どもたちのアイデアを会員企業が形にする「ものづくりコンテスト」も開催している。
取材者コメント(編集部 西村)
危機意識と明確な夢が生み出す、地域の課題解決実行力
地域の活動において、「つながり」という言葉は広く用いられています。しかし、その意味や機能は一様ではなく、抽象的に語られてしまう場面も少なくありません。そうした中でドッツアンドラインズが実践しているのは、外部からの視点やニーズを起点に情報を集約し、必要な事業者を適切にアサインし、成果へと結びつけていくこと。社名に込められた「点(ドッツ)として存在する工場を線(ライン)としてつなげる」という発想の通り、そこにはビジネスとして価値を生む、具体的で機能的な「つながり」がありました。
その根底にあるのは、同社代表・齋藤さんの、圧倒的な当事者意識に基づく経営視点です。「地域のためでもあるけれど、私の会社も仕事をお願いする先がなくなったら困る。そういう意味で、こうばの窓口は、自分のための活動でもあるんです」。虚飾のない言葉からは、事業に向き合う切実さがにじみ出ています。
齋藤さんにとっては、シビックプライドの醸成もまた、ただ単に情緒的な価値を求めたものではなく、地域産業の担い手を確保し、家業を持続させていくための現実的な手段としての取り組みです。工場と外部との接点の拡大により、技術が他者から求められ、評価される機会を増やし、地域産業の価値が可視化される。それを通じて、重層的な下請け構造の中にあっては見失われがちだった技術へのプライドを取り戻し、地域の人々の地域産業への誇り、ひいては技術を育んできた燕三条というまちへのシビックプライドが高まっていく。そうして点在する地域の価値を線としてつなげ、その線が「束」となった時に、人々の愛着によって支えられる基幹産業となる……。こうばの窓口は、そうした未来をつくるための活動なのだと思います。
ドッツアンドラインズのもつ、大きなビジョンと、リアルな経営視点という二面性。それが凝縮されているのが、次の齋藤さんの言葉。「私たちの取り組みは、決して『特別な人間だからできたこと』ではありません。背景と目的を整理すれば、自ずと導かれる手法です。ただし、それを実行に移せるかどうかは、危機意識と、同時に明確な夢を持てるかにかかっています」。これは、地域産業を盛り上げようとする人たちにとっての、心強いエールだと感じました。
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