\上山市役所 市政戦略課 クアオルト推進係の長島さんからメッセージ/
上山市では、森林や温泉、食などの豊富な地域資源を活かした“リカバリープログラム”をご用意し、社員の健康づくり、コミュニケーション・チームビルディングの向上などを目的とした研修や福利厚生、ワーケーションなど、地域を挙げて健康経営を応援しています。ご興味のある企業様はお問い合わせください。また、今年2025年6月には、初心者にも優しいクアオルト「蔵王高原坊平(ぼうだいら)コース」が新設され、夏でも涼しく快適に歩く環境が整っています。どうぞご自身のペースで、自然の中でのひとときを楽しんでいただけたら嬉しいです!
■概要:市全域を“健康保養地”として捉える
山形県上山(かみのやま)市は2008年度から “心と体がうるおうまち”づくりを掲げ、自然、食、温泉と運動を組み合わせた「クアオルト(ドイツ語で健康保養地の意味)」に取り組んでいる。蔵王(ざおう)連峰の玄関口に位置する同市は、山々に囲まれた地形を活かして、高度差や距離、傾斜度など運動負荷の異なる9つのウォーキングコースを整備。「早朝ウォーキング」や、年間360日行われる「毎日ウォーキング」など、参加者の体力やニーズに合わせた多様なメニューを提供しており、市民は無料で参加できる。

市内には9つのウォーキングコースが整備され、休憩や瞑想ができる場所など、コースごとに様々な工夫が施されている。
■背景・課題:医療費増大と観光客減少が深刻化
上山市では2000年代にかけて少子高齢化と生活習慣病の増加が進み、大きな課題となっていた。2007年には市民一人当たりの医療費が県内13市で最も高く、高齢化率も2番目に高い状況に。さらに、かつては温泉地としての活気もあったが、2008年の年間宿泊客数は約30万人と、15年間で半減していた。
こうした状況を受け、市は友好都市であるドイツ・ドナウエッシンゲン市との交流などをきっかけに、同国発祥の「クアオルト」に着目。地域資源を最大限に活かし、市民の健康増進と観光振興を両立させることを目的に、クアオルトの取り組みを始めた。

上山市の魅力のひとつは、市内中心部から車で10分ほどで山に親しめる立地の良さにある。
■実績:健康づくりが地域経済にも波及
クアオルトの取り組みは、市民の健康増進と地域経済の活性化の両面で成果を上げつつある。2020年度には健康づくりの取り組みに応じて、活動参加者にポイントを付与し、商品券と交換できる「かみのやま健康ポイント」事業を開始。事業に継続して参加した人々の運動の習慣化につながっているほか、医療費は開始から4年間において減少するという効果が確認された。

健康ポイント読取端末「あるこう!かざすくん」は市内37か所に設置され、活動量計・アプリをかざすとポイントが貯まる。
また、健康づくりの担い手となる人材「健康マイスター」養成講座を実施し、これまで約160名が受講。健康マイスターは健康ポイント事業のほか、小学生の登下校時の見守り、介護予防事業の送迎サポート、認知症カフェなどの場面でボランティア活動に取り組んでいる。
■展望:次世代にクアオルトの取り組みをつなぐために
市の調査によると、クアオルトの市民認知度は8割に達している。今後は、クアオルトが「地域資源を活かしたまちづくり」であるという視点を市民に根付かせていくことを目指すとともに、より幅広い世代が主体的に、楽しく健康づくりを実践できる環境を整えていく。さらに、企業が健康経営を体現できるフィールドの整備や強化に取り組む地域の動きを支援し、地域と企業の連携を促進することで、交流人口の拡大につなげていく。
取材者コメント (編集部 水本)
“頑張らない”に秘訣がある――楽しむことがまちづくりを続ける力に
秋の風が心地よく山々を吹き抜ける9月、初心者向けの「クアオルト 葉山コース」を歩く「早朝ウォーキング」に参加しました。朝6時50分に集合し、全長3km、高低差129mの道のりを、この日集まった地元の参加者6名とともに歩きます。皆さん喜寿を超えていましたが、その背中はとても元気で軽やか。自然と私の足も前へ進みました。
ガイドを務めるのは、上山市温泉クアオルト協議会会長であり、旅館「彩花亭 時代屋」を経営する冨士重人さん。「葉山コース」は、市を中心に旅館組合やボランティアが協力し、20年以上かけて整備。木を伐採して自律神経の活性化に配慮した木漏れ日の道をつくるなど、様々な取り組みが行われてきたそうです。道中にある休憩所や足湯は、地元の企業や団体からの寄贈によるものが多く、地域の人々の力でコースが磨かれてきたことが伝わってきます。
冨士さんは歩きながら、コース内に自生している山菜や薬草をみつけては、味の特徴や健康への効能を解説してくれました。また、参加者全員でストレッチをしたり、展望台から眼下のまちに向かってお腹の底から一斉に声を響かせたりと、自然に交流が生まれる仕掛けが随所にありました。

地域の方々との交流が生まれる早朝ウォーキング。
編集部の我々も地域の一員になったかのような時間を過ごすことができた。
歩き終えた後は、各自が持ち寄った自家製の漬物や甘酒、甘酸っぱいほおずきを片手に語らう「ティータイム」。取材で訪れた“よそ者”の私たちに、「一緒に歩けてよかった。毎回おいで!」と声をかけてくれた参加者の言葉には、外から来る人を歓迎し、地元の魅力を分かち合おうとする気持ちがにじんでいました。
今回の取材でお話を伺った健康マイスターや専門ガイドの方々は、「ボランティア活動を通じて地域の人や観光客と交流できるのが何よりも楽しい」「ガイドをしながら色々な話をしていると、“家族”が広がっていくように感じる。そうしたつながりこそ、数字には表れないクアオルトの効果だと思う」と話します。クアオルトをはじめ、健康づくりの活動やボランティアに参加している地元の方々は、健康づくりを楽しみながら地域の魅力を伝える存在であり、何より自らがいきいきと輝いている「上山市のアンバサダー」のように、私の目には映りました。

「人との交流が一番楽しく嬉しい』と語る健康マイスターの小野塚とし子さん(左)と、NPO法人蔵王テラポイト協会理事長で、気候と地形の特性を活用した「気候性地形療法」ウォーキングガイドを務める渡邉健一さん(右)
取材の中で印象的だったのは、コースを案内してくれた冨士さんが「ウォーキングで大切なのは頑張らないこと」と語っていたことです。頑張るよりも、楽しむことを大切にするのが、長く続けるための秘訣。その姿勢は、まちづくりやシビックプライドの醸成にも通じるのではないか。そんな思いを抱きながら、上山市を後にしました。
