■「鳥取方式®」とは、NPO法人グリーンスポーツ鳥取が考案した、安価な芝生化と維持管理の手間を必要最小限とした取り組みのこと。
この取り組みは「芝生は維持管理に手間がかかり、高価なもの」「校庭や公園は行政が作るもの」という2つの固定観念を覆した。グリーンスポーツ鳥取と鳥取市、市民の三者が取り組みのステークホルダー。グリーンスポーツ鳥取は芝の専門家として、その場所に合った最適な施工・管理・維持方法を、費用や省力化を意識しながら提案し、具体的な技術指導も行う。鳥取市は、芝生化の取り組みを後押しする情報の提供や地域の声の吸い上げ、資金援助や政策策定で取り組みを支援する。市民は、芝生化プロジェクトに参加し、グリーンスポーツ鳥取の指導を直接受けながら、自らの手でポット苗移植などの芝生化の作業を進める。三者がそれぞれの立場や強みを生かしながら連携し、市立保育園や公園など、市民が身近で芝生を楽しめる環境を現在も拡大し続けている。
■2003年に鳥取市湖山池のほとりに誕生した広大な芝生広場「グリーンフィールド」が、芝生化アクションの原点。グリーンスポーツ鳥取代表のニール・スミスさんが「自分の身近にラグビーをプレイできる、広大な芝生を作りたかった」という理由でつくったこの芝生広場は、今ではスポーツや地域イベントが頻繁に行われ、犬と戯れたい人や、芝生を駆け回りたい人など、地域住民が日常的に訪れる場所になっている。この広場は、グリーンスポーツ鳥取が県から場所を借り受けて管理・運営し、地元住民とともに整備を行っている。芝生専門の大学教授の力も借りながら、地元住民と共に芝生化を実現し、「行政に全面的に頼らずとも、広場をつくれる」ことを実証。開設から20年以上たつ今も、地域住民に愛され、自由に大切に使われ続けている。
■グリーンスポーツ鳥取は、グリーンフィールド開設・運営で得た経験を糧に、2003年から県内の小中学校及び全国の校庭や空き地を芝生化する取り組みにも参画している。2008年には鳥取県の「保育園の園庭」の芝生化事業にアドバイザーとして参画。園を利用する市民や職員、事業を取り仕切る行政、芝生の専門家として指導を行うNPOという三者連携体制を構築して、約9割の園庭芝生化を達成。園庭に芝張りやポット苗を植える作業は、NPOの指導を受けて、職員や保護者・園児がイベント的に実行。芝の維持・管理は、芝刈りロボットや自動散水システムをNPOが機種まで選定し、行政が導入支援することで省力化に成功。それぞれの強みと立場を活かした連携で、「市内保育園の庭は芝生」という環境がこの地域での常識として定着してきている。
取材者コメント (YOMIKO都市生活研究所 深見恵理)
「またあの芝生を歩きたい」身近で心地よい体感が、いつの間にかまちへの愛着を生み出していた
大雨の中訪れた「グリーンフィールド」は、悪天候でも傘を投げ捨てて駆けだしたくなるような、気持ちの良い一面の芝生広場でした。
利用ルールやマナーは特に記載されていませんが、利用する市民たちは思い思いに芝生遊びを堪能し、「自分のための場所」として、各々がこのグラウンドを大切にしているそうです。この場所を作ったニールさんは、「整備当初から地元住民を巻き込み、目標や状況を丁寧に共有し、自分の背中を見せながら作業を進めていく過程で、地域の方が主体的に手を貸してくれるようになった」と話していました。行政から与えられた場所ではなく、ニールさんを起点に住民たちの手で作り上げた場所だからこそ、「自分たちで手に入れた自分たちのための場所」として思いも募り、大切に使われているのではないかと推察しました。
また、日本海テレビのアナウンサー時代にニールさんを複数回取材したことがきっかけで、ご自身もプロジェクトに参加するようになった、現鳥取県議会議員の福浜さんも、芝生化の取り組みが地域にもたらした変化を語ってくれました。「日本海テレビのドキュメンタリー番組で、『芝生化した小学校では外遊びする子どもたちが増え、いじめなどの行為も減った』と、子どもに起きた良い変化が報道されたことで、『自分の子を芝生で走らせたい』という気持ちが芽生え、『管理や手間が大変なのではないか』と芝生化に否定的だった保護者会が積極的になり、鳥取市、グリーンスポーツ鳥取と一緒になって、自分たちの手で芝生化を達成した」そうです。それは「まちや未来のためではなく、自分のために、ラグビーができる場所を作りたかった」というニールさん同様、街のため、未来のため、という視座に限らず、自分のため、家族のため…という身近な視座が、強い原動力・モチベーションとなり、「自分や身近な人を思って自分たちの手でつくった」ということから、地域の人のシビックプライドを支える場を生み出していけるということなのだと感じました。
今回、保育園芝生化の取り組みについて、ニールさん・福浜さん、鳥取市役所こども部の淺井さんにもお話を伺う中、終始チームとしての強い信頼感・連携感が感じられ、印象的でした。NPOと行政という立場の違いから衝突することも多々あれど、都度お互いの持つ専門性を尊重し、それぞれの立場でできることを擦り合わせることで、連携を強めていったそうです。定期的な人事異動で担当者が数回変わる中、前任者と次期担当者、グリーンスポーツ鳥取の三つ巴での引継ぎを必ず実施し、人となりと合わせてプロジェクトを共有していくことで、スムーズに移行できたとお話しされていました。公のプロジェクトにおいても、腹を割り思いを共有することが一番大切なのかもしれません。
芝生化が進む鳥取市ですが、上京などで地元を離れた時に、芝生ではなく土がメインの周辺環境に違和感を覚える方もいるそうです。かつてグリーンフィールドでスポーツ練習をしていた市民の方が上京し、土だけの都会の練習環境に接してはじめて、自由に芝生を使えたありがたみに気づいたといいます。
ニールさんは「芝生の上を歩く行為は、本能的な心地よさを人に与える」と話していました。鳥取で日常的に得ていた心地良い体感がなくなることで、故郷に対する誇りや愛着に気づくなど、芝生は市民に五感を通じてシビックプライドを醸成してゆく仕掛けかもしれない、と思いました。
(取材・文:深見)
▼グリーンスポーツ鳥取代表のニール・スミスさんとグリーンフィールド。
この広大な芝生広場は、開設後20年以上がたつ今も、地元住民に愛され続けている。
▼芝生化が完了した園庭に出て、裸足で遊ぶ保育園児たち。
▼取材にご協力いただいた鳥取市役所こども部の淺井さん(写真左)、ニールさん(中央)、鳥取県議会議員の福浜さん(右)。
▼終始にわたり、チームとしての強い信頼感と連帯感が感じられた。
▼湖を背に、グリーンフィールドで思い思いに飼い犬と戯れる地元の方々。
▼グリーンフィールドでは地元の方々が日々、様々なスポーツを楽しんでいる。
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