\一般社団法人ジソウラボ理事の藤井公嗣さんからのメッセージ/
米国ポートランドを視察した際、「自分の好き」を大切にしながら、いきいきとまちで活動する人々の姿に大きな刺激を受けました。僕は「みんなで」という意識ではなく、あくまでも「自分が」好きだから、そして「自分が」このまちにとっていいものをつくるんだ、という気持ちを大事にしています。(MA)Pプロジェクトは一区切りを迎えましたが、次の展開に向けて、僕たちも当事者意識を持ち続け、できることを広げていきたいと思います。
▶【公式】一般社団法人ジソウラボ:https://jisolabo.com/
▶(MA) P BE THE MASTER PIECE:https://masterpiece-inami.com/
BE THE (MASTER) PIECE プロジェクト/一般社団法人ジソウラボ
■概要:井波の未来の“源泉”になる人を育てるプロジェクト
富山県南砺市(なんとし)井波の若手経営者らで構成される一般社団法人「ジソウラボ」は、「100年続くまち」を目標に、新規事業の立ち上げを支援し、その実践に取り組む人材を育成している。代表的な活動が「BE THE (MASTER) PIECE プロジェクト(通称:(MA)Pプロジェクト)」だ。井波の人々の暮らしに必要な店舗や機能をジソウラボが見定めたうえで、町内外から事業者や起業家を誘致・マッチング。井波の未来の暮らしや文化を生む“源泉”となる人材を育てることに注力している。また、井波での起業や事業化を志す人材に対し、事業立ち上げまでの期間を対象に、メンバー企業内での短期雇用を通じた支援を行うケースもあり、挑戦を促進する環境づくりが進められている。

まちの中心を貫く八日町通りを中心に、約200人の職人の工房が軒を連ねる。
■背景・経緯:合併後のまちの衰退と閉塞感が課題に
南砺市は2004年、井波を含む周辺の町村が合併して誕生した。しかし合併後、市の中心部から離れた井波では、人口減少や高齢化、空き家の増加といった課題が年々深刻化。こうした状況を受け、地域の持続的な発展を模索する中で、地元の若手経営者たちは井波の原点に立ち返った。もともと彫刻のまちとして栄えてきた井波には、まちのシンボルである瑞泉寺の再建のために迎え入れた一人の彫刻師の技から、職人文化がまち全体に広がっていった歴史がある。そうした背景を踏まえ、施設などのハードの整備よりも、地域を支える“人”に焦点を当てて井波の未来を創り出すべく、2020年に「ジソウラボ」を設立。以来、地域課題の解決に向けた議論と実践、人材育成に取り組んでいる。
■実績:地域の様々な課題を解決する新規事業を、4年間で37件創出
ジソウラボの活動や(MA)Pプロジェクトを契機に、井波では新たな店舗やコミュニティが次々と誕生している。2020年からの4年間で、パン店やコーヒーロースタリー、古着店など、新たに生まれた事業は37件にのぼる。これらの多くは空き家や空き店舗を活用しており、地域住民が日常的に利用できる場が増えたことで、まちの風景が変化し始めた。また、(MA)Pプロジェクトを通じて事業やサービスを立ち上げた人々が、地域課題の解決に向けて別の新たなコミュニティを立ち上げるなど、自身の興味関心を起点にした主体的な活動が生まれている。

井波を「挑戦の地」として選ぶ人を起点に、多様な事業や店舗が生まれている。
■展望:次の目標は「人材育成を行う人材」を育てること
(MA)Pプロジェクトは、井波に必要な事業と人材のマッチングで一定の成果を収めたことから、これまでの活動に一区切りをつけた。今後は、新規事業を立ち上げる人材を「育成できる人材」の養成や、その体系化に注力する。これまでの各事業者の取り組みやプロジェクトの試みをつなぎ、地域内で連携を促進しながら、まち全体での広がりを生むとともに、他地域への展開も可能となる仕組みづくりを目指す。
取材者コメント (編集部 小関)
まちの“人事部”としての目線で、まちに必要な機能と人を結びつける
富山県南西部にある南砺市井波は、人口約8,000人のうち約200人が伝統工芸の木彫職人という、「日本一の木彫のまち」。まちのシンボルである瑞泉寺には精緻な木彫が残り、周辺の家屋や商店街にも、至るところに木彫装飾が施されています。

富山県指定有形文化財である瑞泉寺

まちの排水溝、自動販売機、トイレの案内表示にいたるまで、至るところに木彫、木彫、木彫…!
こうした歴史と風情のあるまちの中心通りを歩きながら、お店の中をのぞいてみると、外観は伝統的な佇まいであるのに対し、中はモダンでおしゃれなコーヒースタンドが広がっていました。そのギャップに驚くとともに、井波というまちが「古き良きもの」と「新しい感性」の両方を受け入れ、育んでいる土地柄を体現しているように感じられました。
井波では近年、 (MA)Pプロジェクトなどを通じて、写真家のスタジオやクラフトビール醸造所といった新しい店舗が次々と誕生しています。なぜ、このまちでこれほど新しい事業が生まれているのでしょうか。ジソウラボ代表理事で、地元で75年続く林業会社の社長でもある島田優平さんに話を伺うと、ジソウラボがまち全体をコーディネートする視点に立って、井波に必要な要素を見極めながら、挑戦者を迎え入れて育てる “インキュベーション機能”を担っていることが見えてきました。
島田さんは「外から来る人にとっては、地域に入ることが一番のハードルです。それでも挑戦したいと言ってくれる人には、私たちが長年築いてきた地元の信頼を貸すようにしています。いわば信用貸しですね」と話します。
印象的だったのは、“信用貸し”という言葉が、心のもちようである“親切”や支援の姿勢を超えて、地域からの信頼を“資源”として機能させる仕組みとして語られていたことです。まちに長く根ざしてきた人々だからこそ持つ信用は、事業を成り立たせるために欠かせない重要な鍵。だからこそ、信用のネットワークを基盤に、必要な要素を見極めながら人と地域をつなぎ、新しい挑戦を支える。そして、地域という事業体の成長・発展を見据え、その実現のために「誰を、どこで、どう活かし、どう育てるか」を考え抜く。ジゾウラボは“信用”を軸に、 “人”と“事(業)”の双方の視点をもつ“まちの人事部”とも言えるのではないでしょうか。
さらに島田さんは、“採用”の基準として「助けてほしいというスタンスの人は、お断りすることもあります」と続けます。自分の好きなこと、挑戦したいことに確かな意思を持って取り組む。そのうえで、足りない部分、つまり地元での信用や関係性を補う形でサポートを受ける。そんな関係性が、井波での共創の前提になっているのです。
まちの人々からの信用を活かす“仕組み”が、新しい人や事業を継続的に呼び込む原動力となる。井波ではいま、挑戦が挑戦を呼ぶ持続的な循環が確かに生まれていました。

ジソウラボの島田優平さん(左)と、藤井公嗣さん(右)
