0123456789確認画面へ進む戻る送信する

TOPTALK & INTERVIEW「分ければ資源」―細部まで工夫が宿る大崎町オリジナルの仕組みづくり

2025.08.18

「分ければ資源」―細部まで工夫が宿る大崎町オリジナルの仕組みづくり

リサイクル率日本一の鹿児島県大崎町が目指す「世界の未来をつくる町」の姿〈中篇〉
3
いいね

20年以上にわたってリサイクルに取り組み、リサイクル率日本一に16回輝いた実績をもつ鹿児島県曽於郡大崎町。〈前篇〉では、ごみを28品目に日常的に分別する町民の声を聞き、それぞれの立場でリサイクルと向き合い、まちを自分ごととして捉えることが、シビックプライドにつながりつつある様子を紹介した。続く中編では、リサイクルの裏側をより深く学ぶため、資源ごみの処理施設や埋立処分場を訪問。そこには、地元の資源を生かして大崎町ならではのリサイクル技術を生み出してきた、まさにシビックプライドを象徴するような町民の創意工夫と、日本だけでなく、世界のごみ問題の解決を目指す姿があった。

 

 

    • 髙橋 知成(たかはし ともなり)さん
      一般社団法人大崎町SDGs推進協議会 アシスタントディレクター
      熊本県阿蘇市出身。鹿児島大学法文学部卒業。大学在学中よりインターンとして関わり、2024年から正式に参加。体験型宿泊施設『circular village hostel GURURI』の運営を行う他、様々なプロジェクトに従事。

きっかけは埋立ごみの危機

前篇にも書いたように、今回の取材で編集部は、大崎町ルールに則ってごみの分別を体験できる「circular village hostel GURURI(サーキュラー・ヴィレッジ・ホステル・グルリ)」に宿泊した。

用意されていた水切り用の洗濯ばさみに、実際にプラスチックを干してみた


お菓子の包装として使われていた紙を捨てる際、素材やサイズによって紙だけでも分別は8種類あり、実際に試してみると想像以上に手間がかかることを痛感した。その後、自分たちが分けたごみや資源がどうなるのかを理解するため、この日はまちの資源ごみリサイクル施設とごみの埋立処分場を訪れた。

案内してくれたのは、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会で事務局を務める髙橋知成さん。施設に向かう車内で、まずは大崎町がリサイクルに舵を切った経緯から教えてくれた。

熊本県阿蘇市出身の髙橋さん。環境教育や公害に関心をもち、2024年から大崎に移住

髙橋:大崎町が「リサイクルのまち」へと踏み出したのは、1998年のこと。当時は他の小規模自治体と同様にすべてのごみを埋め立てていましたが、処分場の残りの容量が予想よりも早く満杯になり、焼却炉を建設するか、処分場を新たに設立するか、あるいは当時の処分場を何らかの形で延命させるかの判断に迫られていました。議論の結果、焼却炉の建設と運営には莫大なコストがかかるため、延命させること、つまり埋立量を減らしてできるだけ当時の埋立処分場を長く使うべく、リサイクルに注力することになりました。

大崎町の役場では職員向けに徹底した研修を実施。分別開始前の3〜4ヶ月間は、住民の予定に合わせて職員が合計450回以上の説明会を行った。集落ごとになるべく住民が集まりやすい日に説明会を設定するなど、地道に人を集める工夫を継続した。分別品目が多いことは、住民への負担が大きいとして「反対派からペットボトルが飛んできた」という話もあるものの、粘り強く協議し徹底したごみの分別を開始したことで、「数年で満杯になる」とされた埋立処分場は、25年以上経った現在も使用可能な状態にある。

髙橋:当時大崎町は、環境負荷の軽減ではなく、埋立ごみを減らさなければいけないという切実な課題に直面しました。ごみを分別することさえできれば、資源として再利用できる量が増えるため、埋立処分場に搬入するごみの量を減らすことにつながり、結果として埋立処分場の延命化を図ることができる。そこから「混ぜればごみ、分ければ資源」という意識が徹底され、全国トップクラスのリサイクル率を達成できたのです。

生ごみの循環を支える“まち全体のコンポスト”

大崎町がリサイクルを推進するうえで最も大きな効果があったのが、生ごみと草木の堆肥化だ。町のごみのうち、生ごみと草木は重量比で約6割を占めており、かつてはそのまま埋め立て処分されていた。しかし、これをリサイクルする仕組みを整えたことで、埋め立てごみの大幅な削減につながった。

生ごみの処理においては、コンポストを使って各自宅で堆肥化するケースは全国的に徐々に広がりつつあるが、大崎町では週に3回、自治会ごとにバケツで生ごみを回収し、町内全域の生ごみを堆肥化している点に特徴がある。そしてこの作業を担っているのが「そおリサイクルセンター」の大崎有機工場だ。

編集部が車を降りて施設を一目見たときは、整然とした設備が並ぶ、いわば「どこにでもありそうな」ごみの処理施設のように思えた。だが、話を聞くうちに、そおリサイクルセンターの有機工場がもつ魅力に引き込まれていくことになる。

住民は自治会ごとに専用のバケツに生ごみを出し、それがセンターに運ばれてくる

髙橋:ここはいわば、“まち全体のコンポスト”として機能している場所です。野菜くずや料理ごみといった生ごみと、道路伐採などから出る草木剪定くずを混ぜ合わせ、土着菌の力で堆肥を作っています。着目していただきたいのが、鹿児島の特産品である芋焼酎をつくる工程で使用する機械を一部改造して、ごみと草木を混ぜる機械を作り上げたこと。また、各自治体から生ごみを集める際に使用しているバケツの汚れを落とすために、水ではなく、おがくずを活用しています。浄水設備を新たに設けると費用がかさむ上に大量の水を使うことになるため、地元にある資材を活かし、最低限のコストで仕組みを築きました。

髙橋さんの説明を聞いて印象に残ったのは「あるものを活かす」という姿勢だ。私たちは地域の課題に向き合うとき、どうしても「今足りないもの」や「新たな投資」に目を向けがちになる。しかしこの工場での取り組みに触れて感じたのは、地域にすでにある資源や知恵、そして日々の工夫を組み合わせることで、十分に解決の糸口が見えてくるということ。「ないものさがし」ではなく「あるものさがし」の視点を持つことができれば、目の前の課題の見え方も変わってくるに違いない。

そんな思いを抱き施設の見学を進めていたところ、あたりからふと、土のいい香りが漂ってきた。奥へ進むと、発酵が進んだ生ごみから湯気が立ち上っている。その光景は静かで、しかし驚くほど力強く、思わず「美しい」と声がもれた。高橋さんによると、この様子に見入る視察者は少なくないという。

発酵が進む生ごみからは湯気が出ていて、土のいい香りがした

髙橋:生ごみは6ヶ月かけて温度調整と攪拌(かくはん)を繰り返すことで、当初の約10分の1の量になり、最終的に完熟堆肥「おかえり環ちゃん」として町内で販売されています。ここでは2人の作業員が一連の作業と発酵プロセスを管理しています。堆肥づくりには菌という生物を扱う上での職人技な部分も多く、彼らは“まちのいきものがかり”として、1万2000人分の生ごみを扱っているんです。現在は他自治体への展開や後継者育成を見据え、東京のIT企業と連携してデータを取得しながら、作業効率を高める試みを進めています。

循環の「環」の字をとって名付けられた堆肥、「おかえり環ちゃん」

「紙おむつから紙おむつを作る」世界初のリサイクルに挑戦

有機工場で処理される生ごみ以外の資源ごみは、「そおリサイクルセンター」で分別し、再利用される。

大崎町だけでなく、近隣の曽於市や志布志市なども含めて約10万人分のごみをリサイクルする


住民が28品目に分けて出したごみは、センター内でさらに約50品目へと分別する。プラスチックや缶、びんなどは検品、圧縮されてリサイクル業者に引き渡され、廃食油は軽油代替燃料に精製され、ごみ収集車の燃料として活用される。編集部が訪れたタイミングでは、包丁やフライパンなどの金属製品の中から、そのままでは分別が難しい道具を、スタッフが手作業で素材ごとに分けていた。

そんな同施設で行われている新たな取り組みが使用済み紙おむつのリサイクルだ。

髙橋:使用済みの紙おむつはこれまで埋立ごみとして処理されていて、実は埋立ごみ全体の約2割を占めていました。最近は介護用のおむつごみも増えていることから、隣接する志布志市、大崎町では再資源化に向けてユニ・チャームと協業してリサイクルを実施しています。環境省の発表によると、高齢化に伴い、一般廃棄物に含まれる紙オムツの割合は2030年までに6.6%〜7.1%まで増加すると言われています。ユニ・チャームも使い捨て紙おむつを製造している会社として、社会に対して責任があるのではないかと強く感じ、リサイクル技術の確立に着手しようと考えたそうです。

これまで紙おむつをダンボールや古紙などに再利用する企業はあったが、大崎町で行われているのは、使用済み紙おむつから新たな紙おむつを作り出す「水平リサイクル」。紙おむつにおける水平リサイクルの試みは、世界初だという。大崎町は、日本のみならず世界が直面しているごみの問題に対して、解決に向けたヒントを探る実験場としての役割も果たしていることになる。ちなみに回収された使用済みの紙おむつは、脱水処理をした後に細かく粉砕して洗浄する。そして素材ごとに分けるなかで、繊維のもととなるパルプをオゾンの力で除菌し、漂白、脱臭を施すことで、新品のパルプと同様に衛生的で安全な状態に生まれ変わらせている。

スタイリッシュで目を引くデザインで、思わず写真に撮りたくなる佇まいのごみ収集車


そおリサイクルセンターでは、美術系大学との連携によってごみ収集車のデザインをリニューアルするなど、ごみに関わる様々なイメージを一新し、人々のごみに対する意識や捉え方を変えていく取り組みも進められている。

住民の頑張りに頼るだけでは限界が

生ごみは堆肥に、資源ごみはリサイクルされる一方で、どうしても処理しきれない約2割のごみは、最終的に埋立処分場へと送られる。編集部が同処分場の敷地内を歩いてみると、あちこちに埋立前のごみが山積みに。機械で粉砕されたひな人形と目が合い、居心地の悪さを覚える。

埋め立てられる前の大型の寝具やマッサージチェア

髙橋:僕が視察で立ち会うたびに、ごみの埋立面積が着実に広がり、処分場の残容量が確実に減っているのを実感します。お金と時間をかければ、多くのものはリサイクルできるのですが、コストとのバランスが現実的に問われるなか、埋立処分せざるを得ないものがここに集まってきています。

大崎町ではごみと土を交互に重ねる方式で埋め立てている


埋立処分場は現在約5割が使用済みで、残された使用可能期間はおよそ40年とされている。

髙橋:全国の埋立処分場の平均残余年数の23. 5年と比べると、まだ比較的余裕があるように思えますが、このまちで人が暮らす限り日々ごみは出続け、埋立面積は広がっていきます。大崎町では住民の努力のおかげで高いリサイクル率を達成してきましたが、努力で対応できる部分には限界も見えてきている。今後は、商品設計など“上流”での工夫が求められるほか、分別を担う住民の高齢化が進むなかで、リサイクルをどのように持続させていくのか、改めて議論していく必要があります。

今回の取材を通じて、大崎町のリサイクルへの理解が深まると同時に、住民の協力に支えられてきたこの取り組みが、転換期を迎えつつあることが見えてきた。〈後編〉では、現在直面しているリサイクルの課題をより詳しく掘り下げるとともに、「大崎町はごみの循環の先に、どのような未来を描いているのか?」という問いを軸に、人やモノが循環するまちを目指して動き始めた大崎町の、地域資源を生かした新たな取り組みや、そこに関わる人々の姿を伝えたい。

(取材:小関/文:土橋)

JOIN US/ CIVIC PRIDE 編集部とつながる