■宮崎県都農町(つのちょう)は農業を基幹産業とする人口1万人弱のまち。高齢化率は38%と、日本の平均よりも25年早く高齢化が進行、また少子化の影響で、2021年3月に町内唯一の高校が閉校し、町内の学校は中学校1校と小学校3校のみとなった。
■株式会社イツノマは、UDS株式会社で「キッザニア東京」などを立ち上げた中川敬文さんが2020年に都農町に移住して立ち上げた会社。「人からはじまる、まちづくり」をミッションに掲げ、創業1年目は、都農町がふるさと納税で得た資金をもとに設立した「つの未来財団」からの委託で“まちのデジタル化”を推進、主に高齢者を対象に“デジタルフレンドリー”な環境を整備し、GOOD DESIGN賞の「BEST100」を受賞。
■創業2年目の2021年から、「まちづくり」と「教育」を掛け合わせた「こども参画まちづくり」を本格的に始動。小学5年生から中学3年生を対象とした「総合学習」の時間を活用し、年間15~24時間分のカリキュラムをまちづくり教育として受託・運営している。
■「こども参画まちづくり」は、都農中学校の総合学習「つの未来学」を中心に、ゼロカーボン政策を議会に提言する「GREEN HOPE」、中学生の地域クラブ活動「まちづくり部」、自分たちが考えた企画を商店街の空き地を活用して運営する「みちくさ市」という4つの活動を主軸に、地域の未来を担う子ども達が自ら“起動”して企画を考えて実行するプログラム。経済産業省の「第14回 キャリア教育アワード」優秀賞を受賞した。
■子ども達が企画した活動を、町議会をはじめ、商店主や地元企業、周りの大人たちが協力して支援することで、まちづくりが地域ぐるみの活動へと発展している。
取材者コメント (編集部 水本)
自分のまちは自分でつくる!まちの未来を担う「起動人」を育てる「こども参画まちづくり」
今、さまざまな自治体で、地域の子ども達を対象に「ふるさと学習」が行われています。多くの学校や教育委員会はその活動内容として、“ふるさとをフィールドとした豊かな体験”を掲げていますが、大抵は自分が住んでいるまちの文化や歴史を学習したり、地域で活動している人の話を聞いたりと、どちらかと言えば、「まちを知る」ことに重点が置かれているのが実態のようです。いっぽう、イツノマが運営する「こども参画まちづくり」のプログラムは「参画」という名の通り、子ども達が主体的にまちに働き掛けて実行することが主軸になっています。
イツノマの活動のベースには、「若者がUターンしたくなるまちをつくらなければ、まちの未来はつくれない」という危機感があります。実際、都農町で生まれた、現在29歳になる人は110人いるのに、いま都農町に住んでいるのはたったの5人しかいないそうです。「若者がまちに戻らないのは、仕事が無いことと、まちがつまらないから。だったら、仕事を自分で作れるようになればいいし、自分たちで面白く変えれるようになればいいんです」と、イツノマ代表取締役CEOの中川さんは言います。自分で手を挙げて何かを起こす「起動人」を育てることが重要なのだそうです。
「こども参画まちづくり」のプログラムは、学年に応じて体系的に組まれています。今回、見学させてもらった「ワクワク教室」は、小学5年生を対象とした造形あそびの授業でした。この授業は、一見、まちづくりとは関係がないように思えますが、6年生以降のまちづくり教育の前段階として「楽しいは自分でつくれる」ことを体験し、周りと協力して主体的に取り組む意識を持つためのプログラムになっています。この日の講師は東京造形大学の教授・石賀直之さんと、「探究」教育に熱心な新渡戸文化学園の山内佑輔さんが担当。講師の人選には、東京で20年近くまちづくり会社を運営していた中川さんのネットワークが活かされています。
小学6年生から中学3年生のプログラムは、まちでの活動体験を重視した内容になっています。ゼロカーボン政策では、「商店街に木と花を植える」企画を町議会に提案して100万円の予算を獲得、都農町が「ゼロカーボンタウン」を宣言することにも繋がりました。また、商店街の空き地に人を集めるアイデアから始まった「みちくさ市」では、実際に開業資金を渡されて屋台を運営するだけではなく、決算報告書の作成や利益の活用方法を考えることによって経済活動を学び、「まちづくり部」では、駄菓子屋に挑戦することによって仕入れや販売を体験するなど、将来、まちで活動する際に役立つ実用的な知識を学ぶことができるようになっています。
このような「総合学習」の時間を活用したプログラムは、イツノマという民間会社のみで行えるものではなく、都農町教育委員会の教育長・中西浩美さんにバックアップしていただいたことが大きかったそうです。中西さんは、「キャリア教育は行政や教育委員会、学校の先生だけではなかなかできません。キャリア教育や造形の授業に民間が関わる意義は大きいと思っています」と、行政側も民間のチカラを採り入れるべきだと話されていました。
「こども参画まちづくり」の授業を受けた中学生にアンケートを取ったところ、15%(36人) が「将来、都農町で会社を作りたい」、 30%(72人)が 「都農町をもっと良いまちにするためのアイデアがある」と回答したそうです。また、商業に興味を持ち、高校の商業マネジメントコースに進学する子や、Uターンして、都農町のICTを推進する会社やドッグトレーナーの会社を起業した若者も生まれているとのことでした。
「自分のまちは自分でつくる」、「まちは自分たちで変えることができる」、そんな当事者意識を育てる「こども参画まちづくり」は、まさに、シビックプライドを醸成する教育のカタチだと言えます。
▼イツノマの社名は、「いつの間に?」のスピード感と「都農(つの)」をかけて命名。ロゴデザインは「イマ(今)」の真ん中に「ツノ(都農)」が来るようにデザイン。「人からはじまる、まちづくり」がミッションなので「イ」を「人」になぞらえている。
▼「つの未来学」の様子。まちをテーマとした企画を考え、町長・教育長をはじめ、町の人たちに提案。「みちくさ市」での企画運営につながった。
▼「ワクワク教室」では、子ども達が声を掛け合いながら透明ビニールをドーム状に膨らませたり、創造性を働かせて模様を描いたりと協働ワークを楽しんでいた。
▼「まちづくり部」が運営する駄菓子屋は毎週2日(水・金)開店。仕入、販売、売上など中学生が管理している。
▼イツノマ代表取締役CEOの中川さん(左)と都農町教育委員会 教育長の中西さん(右)